第29回1000字小説バトル Entry4
あと10分で開演するとさっきスタッフの若い坊やが言いに来た。
おいらは左手の薬指にウイスキーの瓶でつくったスライダーをはめ、膝にのせたギターの3フレット辺りから12フレットまで滑らせ、右手の人差し指で弦を引っ掻いてみる。
このもの悲しい音が最近じゃ広い世間で大受けだ。
おいらの故郷の民謡を、いつの間にか白人のキッズ共が真似るようになり、ロックンロールなんてしゃらくさい呼び名まで付けてやがる。
おいらはあの小僧どもが悪魔と慕うR・Jの師匠なんだそうだ。
確かにR・Jにギターの弾き方を教えたのはおいらさ。
でもただそれだけなんだ。
あいつはおいらとウイリーの前から姿を消し、数年たって凄腕のギター弾きになって戻ってきた。
やつはあの辺り一帯のスターにのし上ったが、女癖が悪く、恨みをかった女に毒入りのウイスキーを飲まされて死んじまった。
あとで噂になったものさ。
あいつは悪魔とディールしてあの凄腕を手に入れたってね。
しかしあいつがあほな白ガキどもの教祖に祭り上げられたおかげで、おいらは60過ぎてもう一花咲いたのさ。
R・Jにギターの手ほどきをしたやつってことでさ。
でもR・Jの深夜の十字路の伝説はヨタだぜ。
噂の出所のおいらが言うんだから間違いない。
おいらについての噂だって?
ああ、あれは本当にあったことさ。
じつは、おいらは若い時分に女関係でトラブって人を殺しちまった。
その時のおいらの職業が「牧師」ってところに味があるだろ?
「刑務所での日常」
を唄ったものが結構うけるんだぜ。
・ ・・・・・・なに?もうスタンバれってか。
判った。いまいくから待っとけや。
さて、魔よけの黒猫の骨に語りかけたおいらの独り言は時空を越えて何処に辿り着くのかな?