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第29回1000字小説バトル Entry6

オギー・myラブ

 オギは両目を必要以上に硬く閉じ、誰も真似できない走法で夜の校庭を走っていた。暗闇の中、何度も薄汚い国際部の奴ら(国際部が一体何を目的とした組織だか知らないが、その薄汚さは半端じゃない)に足を掛けて転ばされたが、その度に立ち上がり走り続けた。
 オギは生まれながらのスポーツマン。夜の校庭をひた走る孤高のランナーだ。だが、国際部の奴らにはそんなこと関係ない。奴らにとってこの一人の若きアスリートは単にスタンプ集めの対象(「人転ばし」は国際部の主な活動の一つだ。尚、一人転ばす度にメンバーズカードにスタンプを押していき、国際的景品と交換するのだ)でしかないのだ。
 しかし、誰一人としてオギを助ける者はいない。そんなことをしても女の子にモテないからだ。古くからオギを知る俺(一方的にだが)でさえ、徘徊する痴呆老人のフリをしながらその光景を盗み見ているに過ぎない……。
 オギはいつも右の瞳で未来を見つめ、左の瞳で過去を見つめていた。そのため両目を開くと、未来と過去が互いに浸蝕し合い、入り混じった内的宇宙で孤立してしまうのだ。
 そこではオギは卑しい王様であり、且つ、高貴な乞食であるはずだ。オギは自分で作った法で自分を裁く。自分で自分を曝し首にし、釜茹でにし、塩辛にして食べる。
 もしくは明日を夢見る老人で、しかも、昨日を悔いる若者なのかもしれない。いずれにせよ、そこは彼のみが溢れる世界なのだ。誰もそこに入ることはできない。
 でも、一体それがどうしたと言うのだ。誰もオギに干渉しない(できない)が、オギだって他人になんて干渉しない(できない)。そう、それは全くもってイーブンな間柄なのだ。貸し借りのない都会的関係。クールな付き合いってやつだ。
 そんなオギにも、未来でも過去でもない真の現実を見る瞬間がある。それは正に両目を閉じ、夢を見ている時だ。
 皮肉なことに、夢の中こそが彼にとって真にリアルな世界なのだ。彼が両目を開き、人々が人生という階段を転げ落ちている(そう、転げ落ちているのだ)時間は、彼にとって虚ろで曖昧な夢幻(無限)の時に過ぎない。
 けど、人生なんてそんなもの。他人にとってリアルなことでも、自分にとってはどうでもいいことなのだ。逆もまた然り。
 そんなことを考えていた俺は、小走りをして自分で自分の足を掛け転んでみたが、股間を強打したため国際部の奴らをオギ諸共一人残らず血祭りに上げてやった。

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