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第29回1000字小説バトル Entry9

樹

立派な一本の樹。
今はもう、何も語らない彼が遺した物とは?

誰か来る。
「私、これから結婚式なの」
ああ……。
「綺麗でしょ? 君に見てもらいたくて」
綺麗だ。 でも……。
「何で、こんな事になったのかな?」
泣かないで。
「もう、行くネ」
涙を拭いながら歩いてゆく貴女は、とても淋しそうだった。

芽の芽吹く頃、教会で結婚式が行われた。
式が終わり、赤いバージンロードを2人が歩いて来る。
「おめでとう」 「お幸せに」
参列者は口々に祝福の言葉を口にしている。
その時、何処からか桜の花びらが舞って来た。
木々も、今日のこの日を祝福していると人々は喜んだ。
奇跡だとも言った。
でも、彼女は知っていた。
一本の樹の見える教会で起こった奇跡。
それは、彼からの贈り物なのだと。
「君の事、忘れないから」
彼女はまた、泣いていた……。
 
          二年後

 彼女にも子供ができ、幸せに暮らしていた。
「ほら、私の子供、可愛いでしょ」
………。
「君は居なくなっちゃったけど、私は元気に暮らしてるよ」
………。
「君と、もう一度会いたかったよ」

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