第30回1000字小説バトル Entry13
何もかもが平凡で少しばかり占術の心得がある妊婦が、部屋の中で考えていた。ずっと昔のこと、つらい今のこと、不安な未来のこと…。考えれば考えるほど、気分は深く沈んでいった。
妊娠したことがわかってからというもの、トラブル続きで、週に2〜3回のペースで産婦人科に通っている。1番安静にしなければならない時期、相談する相手も無く事態が改善されることを祈りながら待っていた。せっかく芽生えた命の灯火を消してはならない。そういったプレッシャーに疲れを感じているように見えた。当然の事ながら、胎児は24時間妊婦の腹の中にいる。妊婦が眠るとき、起きるとき、腹痛を訴えるとき、胎児は何も言えない。妊婦は胎児の鼓動すら聞くことができないのだ。それがどんなに不安なことか、男には一生理解できないだろう。産婦人科の待合室で大きくなった腹に手を当てて胎動を感じている姿が、この世で1番幸せそうに見えた。羨ましくもあった。
いつのまにか、気が狂いそうになっていることに気付いた妊婦は、愛用のタロットカードを取り出した。タロットカードの最終結果をはずしたことはない。途中、さまざまなことが妊婦の頭をよぎった。自分の運命を見ることへの罪悪感、もし、良くない最終結果が出たときそれを受け止めることができるか…。
それから、妊婦は考えていることの多くを語ろうとはしなかった。それは、自分の占った結果を受け止めたように見えた。その後もトラブル続きで子宮頚管無力症、切迫早産、妊娠中毒症にかかり、妊娠安定期の2ヶ月を病院で過ごし、妊娠後期を自分の実家で過ごした。実家に身を寄せた妊婦は、今まで動けなかった分を取り返すかのように、可能な範囲内で活発に体を動かした。自分の中で母親としての理想像を考え始めた。そして、はじめてその妊婦が幸せそうだと感じた。臨月を迎えたころ、再び入院した妊婦は帝王切開という初めての手術の不安よりも自分の子供が生まれてくる喜びに満ち溢れていた。そして、手術室で痺れかけた自分の指を力強く握る小さな手から表現しがたい生命力の偉大さ感じた。その後、何事も無く退院し、慌しく今世紀最初の大晦日を迎えようとしているのは言うまでもない。
そう、あの妊婦が半年前に占った最終結果は幸福を意味する「運命の輪」だったのだ。