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第30回1000字小説バトル Entry15

怪盗 紅のタコ

『パパ、僕ここだよ』
「良夫か。どこから電話しているんだ。大丈夫か」
『大丈夫だよ。あ、だめだ。見つかっちゃったよ』
『そこまでだ。逃げようとしてもだめだぞ。今度勝手なことをしたら、縄で縛ってくすぐっちゃうぞ』
「良夫、良夫!」
『権田原さん。今聞いた通り息子さんは無事だ。返してほしければすぐに1000万円用意することだな』
「おまえは誰だ。金はすぐ準備する。早く息子を返してくれ。」

 番田院探偵は、捜査官にそこでテープを止めるよう、指で合図した。
「今のところをもう一度、ゆっくりと聞いてごらん。ボリュームを少し大きくするんだ。いいかい、犯人の声にかぶって、後ろの方から良夫君の声が聞こえている。よく聞いて」
「確かに子供の声が聞こえます」
「何ていっている?」
「タコおじさん…。大タコおじさんと…」
「そうか、やはり、誘拐犯人は怪盗『紅のタコ』だったんだな」
 横から、金台地警部が言葉を挟んだ。
「紅のタコ」とは、最近世間を騒がしている大怪盗の名前だった。垂直のビルの壁面をタコのような吸引力で吸いつくという忍びの業をもった怪人のことである。
「こいつはやっかいなことになったな。相手があの和製ルパンといわれる『紅のタコ』だとは。番田院くん、君は『紅のタコ』とは因縁浅からぬ仲だそうだが…」
「金台地さん。まだ犯人が奴だと結論を出すのは早すぎますよ。事件の経緯を見ているとあまりにも稚拙すぎる」
 番田院は、金台地警部を振り返ってそういったが、このそそっかしい警部は、素人探偵の出る幕ではないというように、露骨に顔をしかめた。もちろん、番田院は気づかない振りをしている。
 と、その時、部屋に入ってきた者がある。被害者権田原氏の秘書であった。
「秘書の太田です。お呼びになりましたか」
「ああ、君が太田君か。良夫君がさらわれた時の話をもっと詳しく知りたいと思ってね」
 その時である。番田院が金台地警部の背中を人差し指で突ついた。
「なんだ」
「金台地さん、ちょっと…」
 番田院は、金台地を部屋の隅に引っ張っていくと、誰にも聞こえないようなひそひそ声でいった。
「あの秘書ですが、太田さんとか言いましたね。どうも怪しいですな」
「ど、どこがだ」
「今この調書に目を通したんですが、彼の名前、浩次っていうんですよね」
「そうだが…」
 番田院は、大きくため息を吐きながらいった。
 
「大タコおじさんは、太田浩次さんに似ていますよね」
 そのまんまじゃん。

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