第30回1000字小説バトル Entry17
「――?」
戸塚菜摘は洗面台の鏡を見直した。
額の真ん中に、小指の先ほどのできものができていた。
「甘いもの食べ過ぎましたか、私?」
菜摘はできものに触れた。
皮膚がつっぱっている。
「このまま学校に行くのは恥ずかしいですね」
引き出しから絆創膏を取って、額にあてがってみる。
「……昭和の漫画のやんちゃ坊主キャラみたいです」
菜摘は絆創膏を戻し、腕時計にちらりと目を向ける。
「考えてる暇はなさそうです」
菜摘は額のできものに両手を添えた。
「い、痛あぁぁぁ……」
ぶにゅっ。
強い痛みと共に、溜まっていた膿が噴き出し、鏡にまで飛び散った。
「にゅぅ」
額をティッシュで拭うと、できものは影も形もなくなっていた。
半年後の朝。
「ええっ!」
菜摘は鏡の前で声を上げる。
彼女の額には、また同じ形のできものがあった。
「これで三回目です……」
ぶにゅっ。
痛みを堪えて膿を絞り出した後、顔を洗う。
「痕は全く出来ませんけど」
タオルで顔を拭く。
「何かよろしくない病気なのでしょうか?」
溜息をついた。
「後天性ベルーゾー血栓による肝細胞機能不全がもたらした老廃物中性腫瘍の様ですね」
白髪頭の医者はカルテを見ながら言う。
「は?」
「だから、後天――」
「いや、それは聞こえました」
「じゃあ何?」
「一体どういう病気なのでしょう?」
菜摘は心配そうに尋ねる。
「言ったままですけどね」
医者はカルテから顔を上げた。
「肝臓は毒物を分解するのが仕事なんですよ。知ってますね?」
「はあ」
「でも、あなたの場合、肝臓の機能が貧血気味で動きが悪く、毒物が解毒されずに体内に残ってしまうわけです」
「ええっ!」
思わず菜摘は声を上げる。
「そ、それじゃ、私の身体は毒でいっぱい?」
「そんなとこです」
「わ、わ、それって!」
「それが良くしたもので、一定濃度に達した段階で一気に集まって腫瘍になるんです」
「腫瘍ですか?」
「それができものの正体、言ってみりゃ、毒の塊ですね」
医師は自分の額に軽く触れる。
「肝臓の機能は、血管の拡張手術で回復します。簡単な手術ですし、二日も入院すれば退院できますよ」
「手術……やっぱりこのままだと死んじゃったりするんですか?」
「ええ。腫瘍を放置しておくと、体内に吸収されて行きますからね」
「放置しておくと?」
朝。
菜摘は鼻歌混じりに鏡に向かう。
「あら」
できもののない額をなでた。
「まだですかねぇ」
とても待ち遠しそうに。