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第30回1000字小説バトル Entry20

where or when ?

酷く冷える黒の絨毯は、四方八方に地平線の彼方へと広がり、陸や船の気配を見せない。

心臓の位置まで絨毯に飲み込まれた少年は、藁にも縋る想いで、今までの人生で最も尋常でない恐怖と共に彼方此方を見渡し、喉を嗄らす。
「助けて!ねぇ、誰か助けてよぉ!」
陸は愚か、掴む頼みの粉砕した船の欠片も見つからない。
数分前、ダイニングで一緒に夕食を摂っていた仲間達の、救いの手を請う理性を喪失した悲壮な叫び声も、絨毯に飲み込まれてしまったようで無くなっていた。
静寂した暗闇の中、独り極度の寒さに歯をガチガチと鳴らせ、躯中を小刻みに震わせていた少年だったが、自らを浮かせていた手足がいよいよ凍り始め、力尽きようとしていた。

少年は漆黒の天空を仰いで絶望を悟った。
「あぁ母さん、ぼく……まだ生きたいよぉ」
いつの間にか震えは消えて、少年はただただ絨毯にまだ未発達な躯を任せていた。
真っ赤になった丸い頬に涙を流していたがそれも終わり、徐々に睡魔と闘うようになった。
小高い鼻の先以外はもう、絨毯に飲まれてしまっている。

白い瞼が時折、ゆっくりと開閉を繰り返し、儚さを宿した幼い瞳が見え隠れする頃だ。
突然、少年は最期の力を振り絞り、小さな腕と脚を羽ばたかせ、頭から膝の位置までを絨毯から外界に放り出した。

「神さまはざんこくだ!ぼくは、わるいことなんてしたおぼえがないのに!」

一瞬だった。
それから少年は天使の輪が如く、綺麗な弧を描いた水飛沫を立て、絨毯の底へと飲み込まれると二度と上がって来なかった。


その頃、近隣の海岸では貧しさを漂わした衣服を着る一人の女性と幼女が、仲良く手を繋ぎ一緒に大海原を眺めていた。
「おかあさん、おにいちゃんおそいねー本当にたくさんお金もってかえって来るのォ?」
「うーん……もしかして私の勘違いかもしれないわ」
「……え、そっかぁたのしみだったのに、ふぅん……じゃあ今日のよるゴハンないね」
「そうね、御免ね。でも明日は母さん何とかするか……」
「またヘンな知らない男の人つれて来るの?あたし、またソーコにかくれてないとダメなのッ」
「じゃないと神さまに食べられちゃうの!分かって頂戴」
「うー!分かってるよぉたべられたくないもんこわいー!」
幼女は繋いでいた手を離し、無邪気な笑顔を闇に晒してから砂を蹴り走り出し、母親より先に家路へと向かった。

母親は幼女の無垢な後姿を見送ると、一気に大粒の涙を溢れさせ、暫くうずくまっていた。

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