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第30回1000字小説バトル Entry6

無味無臭無感覚

「お前って、味がしないよな。」
遙とキスをする時は、いつもそう思う。セックスの時もそうだ。こいつは味も匂いもしない。
「どういうこと?」
俺も、よく分からない。遙はクスクス笑う。本当は全部知っているのよって顔して。
「人って、匂いとか、味があるんだよ。でも、お前だけはしないんだ。」
「あたし、タバコ吸わないもん。」
「そういうんじゃなくって、一人一人、あるんだよ」
「そんなにいっぱい知っているんだ。」
遙はまた笑う。そうじゃないって言おうとするが、間違いでもないので、黙る。俺の過去も気にしない。
なんとなく口惜しい気分だ。腕を掴んで、無理やり引き寄せる。

遙は声を出さない。出せって言っても絶対出さない。そこにそそられると同時に、寂しさを感じる。
俺が抱いているのは、幻なのではないかと思う。だから、味も匂いもしないのではないか。
「俺のこと好き?」
口癖になってしまった質問に、遙は
「好き」
それだけ言う。体中を舐めても、遙には味がしない。感覚しかない。

遙には両親がいない。父親が三年前に事故死したらしい。母親のことは全く口にしない。父親の保険金で、一人で暮らしている。
初めてのデートは俺の部屋だ。いきなり遙に押し倒されて無理やりセックスされた。あの時の遙の顔は、一生忘れられない。
その時にはすでに無味無臭だった。

「もうすぐ誕生日だね」
遙が呟いた。


俺の誕生日。
遙は留守だった。そして、俺の両親も帰ってこなかった。

夜中、父親に呼び出された。場所は警察だった。警察署の廊下で、父親から双子の妹がいると聞かされた。母親と父親は再婚で、俺と親父は血のつながりがないという。

母親は泣き崩れていた。「ごめんなさい」そればかりブツブツ言っている。俺の妹は、電車に飛び込んだそうだ。妹といわれても、わからない。だって、目の前のシーツに包まれている死体は、遙だ。

親父に、初めて会った妹とふたりだけにしてくれと頼んだ。
今日、初めて遙の誕生日を知ったんだ。

二人きりになった。俺と遙は同じものだった。だから、味も匂いも俺だけが感じられなかったのだ。キスをすると死臭がした。

今、俺は、あの日の遙と同じ顔をしているに違いない。
血のつながりを知っていようがいまいが、もう同罪だよ。



あれから何年経っても、どんなに女を抱いても、臭いに耐えられない。無感覚だ。
俺がほしいのは、無味・無臭か、死の香りのするお前だけ。

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