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第30回1000字小説バトル Entry8

真っ赤な提灯

嘔吐しそうになりながら、私は頭上の無数にある提灯を見上げていた。真っ赤に色付けされた提灯は無関心を装ってはいるが、私に向かって微笑を送っているように観えた。
 私はその日、小学校の同窓会に出席していた。私を含めた皆、三十路に差し掛かる前、最後の二十代を互いに意識しながら座っていた。現実が夢を覆いつくして、酒は夢を近づけるためのものでなくなり、只現実に沿った出来事や過去の栄光と呼べぬ栄光を虚飾する道具になっていた。
 私と親友であったKは家族や会社の自分の置かれている境遇を私にじっくりと細かく説明してくれる。それらの話題はどれもひどくつまらなくて、深みがなく、拾ってきたような代物ばかりだったが、私は熱心に相槌を打ったり、自分の意見を述べたりしていた。私とKのような村的空間はいたるところで作られていた。ごくまれに・・・当時から彼らは活発だったのか忘れてしまったが・・・一気飲みを競いあい、場の雰囲気を無理に盛り上げようとする村も在ったが、その頑張りも彼らの飲んだビールの泡と一緒に消えていった。
 私が僕であった頃、私は僕が無軌道に走り廻り、他愛もないことで笑い、涙して、感動する様をよく目にした。僕、いや僕達には意味の無い注意をする上司も七時きっかりに鳴る時計も底なしの性欲も無かった。だから、僕達は「将来の夢」という題名の作文にも何でも書けた。僕は確か宇宙飛行士になり、月に行きたいと書いた。現在、僕の月は会社になり、ロケットは電車だ。
 私は早く私の何もない家に帰りたかった。解らないけど、皆もそう思っているはずだろう。ここには枯れてしまったものがありすぎる。それを話のネタにしてもいいけどオナニーの後の、あの惨めなティッシュを見ているような気持ちになるのは嫌だ。そして、Kが深刻そうな顔をして私に言った。「嫁さんが浮気してるかもしんないんだよ。」私は答えなかった。その代わり、胃にビールを流しこんだ。私はKの「将来の夢」も思い出す。Kはプロのサッカー選手になりたいと書いていた。鉄筋コンクリートでできた月に勤める私とボールではなく嫁さんを追いかけるK、二人を見て笑ったのは恩師でもなく初恋の人でもない、頭上の真っ赤な提灯だった。嘔吐しそうになりながら、私は頭上の無数にある真っ赤な提灯を見上げていた。

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