第31回1000字小説バトル Entry11
近づいてくるサイレンの中、僕はうれしくて涙を流さずにはいられませんでした。
父と母の喧嘩を見ない日はありませんでした。母は優しい人でしたが、とても
自己中心的な人でした。父に対して不満があると、例え母に非があっても父を
口汚く罵りました。父も外ではいい人で通っていましたが、そういった母を
殴らない日はありませんでした。 母の罵声と父の暴力は、僕たち兄弟の心を
深く傷つけました。僕は父と母の喧嘩が始まると、幼い弟と奥の部屋に逃げ込み、
それが収まるのをじっと待ちました。そして気がつくと、弟はいつも僕の膝で
寝ていました。本当なら母の膝で寝たかったろうに・・・。
どうしたら父と母が仲良くしてくれるだろう、どうしたら家族が幸せに楽しく
暮らせるのだろう。僕はいつしか、そんなことばかり考えるようになって
いました。悩んだ末、僕はある考えに辿り着いたのです。
皆が寝静まった深夜、父と母の寝室に行きました。熟睡している父の左胸に、
ゆっくりとナイフを刺しました。父は一瞬かっと目を見開き、大きく体を
くねらせたあと、ぐったりとしました。父の異変に気づいた母は急に起きあがり、
驚いたような視線を僕に向けました。母が大きな声を出して弟が起きては
かわいそうだと思い、僕は母の口を左手で押さえました。そして僕は母に
「母さん、幸せになろう」と囁くと、母のお腹を刺しました。母が長い時間
苦しまないように、何度も。
2階で寝ていた弟の首を裂き、父と母の寝室に連れて行きました。父と母を
並べ、その間に弟を寝かせました。父の血と、母の血と、弟の血が混じり合った
布団を見て、家族が溶け合っていくのがわかりました。「これでやっと家族が
一緒になれた。」僕はそう思いました。そして僕は警察に電話しました。
電話を切ったあと、部屋に戻ってもう一度3人の顔をじっと見ました。
母の罵声も、父の暴力ももうありません。弟も母の横で、静かに眠っています。
弟の頭を母の膝に乗せ、これが本当の家族なんだと、近づいてくるサイレンの中
僕は思っていました。嬉しさに涙が溢れてきました。
僕は父の横に座り、ナイフを自分の胸に突きつけました。そして3人に覆い
被さるように前に倒れて行きました。ナイフが胸を突き抜けた瞬間、僕は
いつまでも父や母、弟を守ってあげたいと思いました。この幸せが永遠に
続くようにと。そして僕は深い眠りにつきました。深い、深い眠りに・・・・・。