第31回1000字小説バトル Entry3
いくつになったらこの身長は伸びるんだろう?
妹のカサゴよりも低い己の身長に、タマオはやきもきしていた。普通は、歳をとれば身長は伸びなくなるものだが、今まで一度も成長期を迎えていないタマオにとっては、そんな常識は関係ない。
それに引き換え、妹のカサゴはぐんぐんと伸びて、モデルにでもなるしかないのではないかと思わせるほどに長身になっていた。それが逆に、カサゴのコンプレックスになっていた。
短躯に悩む兄と長身に悩む妹。いっそこの身長が入れ替わればいいのに。そうお互いに思うことも多かった。
その日は元旦だった。
近所にある神社に訪れた二人は、賽銭を投げ入れ、願をかけた。その時偶然に、まったく同じ願い事をしたのだ。
(こいつと身長が入れ替わりますように)
何が祭られているのかは解らないが、とにかくその願いは神様の元に届いた。二人の心の声が重なったためなのか、賽銭の金額が例年の十円から百円にアップしたからなのか――。
翌朝目が覚めると、タマオはパジャマが尻に食い込んでいる感覚に気が付いた。布団から出る。パジャマの丈が、足りなくなっている。そしてカサゴはだぶだぶのパジャマに身を包んでいた。念願かなった二人は部屋を飛び出し、廊下で鉢合わせした。
「あ!」
タマオはカサゴを見下ろし、カサゴはタマオを見上げていた。
「やった、これでチビとはお別れだ」
「これでデカ女とはお別れね」
「早速バスケットでもやりに行こうかな」
「早速かわいい洋服を買いに行こう」
二人はすっかり入れ替わった身長に満足し、名も知らぬ神様に感謝した。そして同時に思った。
(神様ありがとうございます。もう何でもお供えしちゃいますよ!)
二人は一軒家に住んでいた。その家はごく本数の少ない電車が通る線路に面していた。だから線路を越えるのに、あまり電車を気にした事はなかった。しかも今は二人とも気分が昂揚しているから、だから左右を確認せずに飛び出してしまったのも無理はなかった。
そこに、二時間に一本の電車が来た。二人は同時に、絶妙のタイミングで電車に轢かれた。巨大な草食動物の鳴き声のようなブレーキ音を響かせて、電車は三十メートルほど通りすぎてから停止した。
線路上には、首を切断された死体が二つ。しかも恐ろしいまでの偶然で、その二つの首は、入れ替わっていた。背の低い方にはタマオの首が、背の高い方にはカサゴの首が……。ピッタリと。