第31回1000字小説バトル Entry4
4ドアのオートマティック自動車の中
私は両手を後で縛られ、後の席の 犯人と斜めの位置に座って1時間経つ。
携帯も取られ、犯人のポケットの中に姿を消した。
犯人の男は、帽子をかぶり、サングラスをして、
高速道路を走っている。
1時間前に起きた出来事を、少しずつ 思い出せるようになってきた。
男の横顔には、動揺の色が隠せない。
私の緊張が解けて、男に移ってしまったかのようだ。
ここで男に話し掛けてみたいという
バカな考えが浮かんだ。きっと男は銃を持っている。しかし
恐怖より興味が勝ってしまった。
「あのー、これ何処まで行くんですか? 」
男は一瞬ビクッと動いた。
そして答えた。
「余計なこと喋るんじゃねぇ」
明らかに動揺している。
「あのー、私お腹空いたなぁ…」
男は何も答えなかった。私は負けずに喋りつづけた。
やっと男は観念して、S.Aで降ろしてくれた。
縛られた腕は、紐の跡が赤くついていた。
私はカレーを頼んだ。
スプーンを、わざと腕で引っ掛けて、床に落とした。
そのスプーンを、男に見られないようにポケットに掠めた。
新しいスプーンをとりに行っている間中、男は私を睨むように監視し続けた。
車に乗り込み、私はおとなしく両腕を後で組んだ。
そして男が紐できつく縛った。
男が運転席に乗り込む時には、実は紐から片手がスルリと抜けていた。
男は全く気づかない。
掠めておいたスプーンを素早く取り出し、また後で腕を組んだ。
車は高速を再び走り出した。
「カレー食べたからかなぁ。あっつい。少し窓開けてくれませんかね? 」
男はエアコンという機能を忘れているらしく、
まんまと後の窓を1cm程度開けた。
今だ!!
持っていたスプーンに、満身の力を込め、窓ガラスを殴りつけた。
見事にガラスは砕け、男は奇声をあげた。
かろうじて車の中に入ったガラスの破片を拾い
男に突きつけた。
男も銃をこちらに向けた。しかし、男はハンドルを握り、
空いている手は無い。
男のポケットに入っている携帯を取り出し、110番を押した。
「誘拐されてます! 首都高速のどこかです! 」
できる限りのことを伝えて、電話を切った。
それから数分が経ち、パトカーが追ってくる音が聞こえた。
男にガラスを突きつけたままだった私は
車が止められると、弾みで男を刺しそうになってしまった。
私はパトカーに乗せられ、無事に脱出した。
男は最後まで私を睨んでいた。