第31回1000字小説バトル Entry33
青。青。
青だった。
ブオオ。
時速80キロの景色。車の窓から見える空は青くて、何処までも青くて。
青くて。
それであたし達は久しぶりに空が青いことを思い出したのだった。
「青いね」
薫が言う。
「うん」
空に手をかざしあたしは答える。
「うん。青いね」
かざした手は赤だ。真っ赤な血に赤だ。
「青いね」
青。そして赤。気持ちの悪いくらいはっきりとしたコントラスト。いかにもな罪と罰。
罪。罰。
(君は本校の誇りだ)
(あなたはママの宝だわ)
(でもね。でもね先生。でもねパパ。ママ。窒息しそうなの。あたし窒息しそうなの)
「ねえ、ラジオつけて良い?」
助手席の薫がこっちを向く。黒い瞳が眩しい。
「良いよ」
薫は細い指でちょこんとスイッチを押した。ラジオからノイズ混じりのロックが流れ出す。
ロック。世界で一番陳腐な音楽。世界で一番悲しい音楽。嘘と孤独と安っぽさと無力を混ぜ合わせたそれは決して発火点に到達出来ずに、空中でばらばらになって消えていく。
あたし達の罪。あたし達の罰。あたし達の孤独。あたし達の理由。
「ねえ、ねえ薫」
あたし達は寂しくて。だからあたし達は嘘ばかりで。
「あたし達はさ」
本当の事なんて何も解らなくて。
「あたし達は間違っているのかな」
自由なんて言われても何処に行って良いのかさえ知らなくて。
「さあ、知らない。間違ってるかもね」
そう静かに答えてこっちを向く薫。黒い瞳が綺麗で。どうしようもなく綺麗で。
「でもさ」
泣ける程綺麗で。
「でも間に合ったじゃない。あたし達は間に合ったじゃない」
近づいてくる薫の唇。
あたしはアクセルを踏み込む。エンジンが唸りをあげる。さらに践む。もっと早く。もっと早く。ロックになんかに追いつかれない位に早く早く速く。
(罪も罰も知らない。だって生きてるのだもの。あたし達は生きてるのだもの)
ノイズだらけのカーラジオが鳴る。その悲しい音を、存在そのもののように悲しく綺麗な音を聞きながら、あたし達は初めての口づけを交わした。
パトカーを蹴散らして、検問を蹴散らして、そして気が付くと目の前は壁だった。白い巨大な壁だった。
壁は凄い勢いでこちらに迫ってきた。その壁の向こうにあたしは色々な、そう、色々な、あたしが、あたし達が無くしてしまったモノが在るような気がして、あたし達が行きたい場所が在るような気がして。
だからあたしは強く、強く強く強くアクセルを踏み込んだ。