第31回1000字小説バトル Entry6
「ねえ、ちょっと! どこを見てるのよ!」
と彼女が言う。
「別に。ちゃんと君を見ているじゃないか」
やれやれ、いつもこうだ。
僕と彼女が出会って半年が経つ。その間に何回この会話を繰り返したんだろうか?
一日あたり2、3回は、やってるよな。半年が180日で、週に5日は確実に彼女と会ってるから……、
……とにかく何百回となくこの会話を繰り返してきたんだ。寸分の狂いもなく。
確かに昔からお前はどこを見ているか分からない、なんて言われる事もあったけど、
何回かすると彼らも諦めて、何も言わなくなったんだけどな。
大体、僕のせいじゃない。生まれつき右目と左目で別の物が見えるようになっていたんだ。
もちろん不便さ。野球をすればバットはボールにかすりもしないし、フライだって捕れない。
でも良いこともある。
シューティング・ゲームなんかをする時にそれぞれの眼で違う方向を見れるから、弾をよけ損なう事なんてまずない。
雑踏の中でカワイイ子を見つけるのも早い。一度に二人の娘を同時に見れるからね。いいだろ?
「ねえ、ちょっと! 何を考えているのよ! 私の話を聞いてる?」
と彼女が言う。
「別に。ちゃんと聞いているよ」
やれやれ、いつもこうだ。
僕と彼女が出会って半年が経つ。その間に何回この会話を繰り返したんだろうか?
一日あたり2、3回は、やってるよな。
僕は何か言われるとさ、大体考え込んでしまうんだ。言われた言葉を反芻してみる。牛とちょっと似てるかも。
すると色々なことが解ってくる。自分が何を言ったらいいかも見えてくるんだ。霧が段々晴れていくみたいに。
それって結構キモチイイものなんだ。セックスとはちょっと違うけどね。
でもその間、ちゃんと待ってくれる人はなかなか居ないね、ホント。彼女も、そのうちの一人。
「ねえ、ちょっと! どこを触ってるのよ!」
と彼女が言う。
「別に。何もしていないじゃないか」
やれやれ、いつもこうだ。
僕と彼女が出会って半年が経つ。その間に何回この会話を繰り返したんだろうか?
付き合っているんだから、ちょっと触るくらい良いじゃないか。減るもんじゃなし。
ほら、向こうのベンチに座っているカップルなんて、もっとすごい事やってるじゃないか。
今時プラトニックなんて流行らないと思うけどなあ。ねえ、君もそう思うでしょ?
「ねえ、ちょっと! どこを見てるのよ!」
と彼女が言う。
「別に。ちゃんと君を見ているじゃないか」
やれやれ。