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第32回1000字小説バトル Entry10

無知である恐怖

 小学生の頃、クラスメートに白血病を患っている生徒が
いた。1、2年生の頃だったと思う。かなり昔のことだった
ので、彼の名前は覚えていない。
 陰険で腹の立つクラスメートだった印象が強い。自分の
体が悪いことを盾にし、「殴ったら先生にゆったるからな」と
言うのが口癖だった。これが彼の弱みであり、また強みでも
あった。
 もう少し僕が大人だったら、彼を受け止められていたかも
知れない。僕は子供だった。
 ある日起こった突然の出来事によって、彼を見る目が
その時期から変わった。
 授業中に急に鼻血を出した彼は、そのまま床に倒れ込んで
しまった。初めにはやし立てていたクラスメートもすでに
青ざめている。床には止まることを知らない血液が
流れ続けていて、それを見て泣き出してしまう人もいた。
 彼は病院に運ばれた。その時は大したこともなかったらしく
次の日には、無事登校してきた。
 それからはみな、彼に気を使うようになった。彼は
変わらないどころか、湾曲した性格に拍車がかかった。友達は
おそらく一人もいなかったのだろう。病と孤独、彼は辛かった
に違いない。
 数日後、彼の席には誰も座っていなかった。次の日も、
そのまた次の日も、彼は現れなかった。一週間たっても
現れることはなかった。
 学校を休むことはよくあったが、一週間ずっと休み続けた
のは初めてだった。驚愕の事実は、その三日後に知ることに
なった。
 朝のホームルームで、先生は重い顔をしていた。一分近くの
沈黙の後、先生は最小限の言葉を繕った。
 「**君は、亡くなりました」
 彼は病気の状態が悪化し、一週間ほど前から入院していた
らしい。彼は回復の兆しも見せないまま、他界した。
 言葉に表現できない心の空白が、当時の僕には
やはり表現することのできない感覚を生んだ。死についての
知識が乏しすぎたのだ。
 彼の一生は、悲痛なものだったに違いない。もし小学生の
僕ではなく、すでに構築された心を保持している今の僕なら、
彼の孤独くらいなら、取り除いてあげられたかもしれない。
 
 子供は嫌いだ。

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