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第32回1000字小説バトル Entry9

便意の太陽

映画館を出ると、街はすでに暮れかかっていた。

暮れかけの中途半端な太陽は、

いつも時が経つ虚しさを伝えて消えてゆく。

小学校の頃もそうだった。

下校時間、暮れ行く夕日に、感じなくても良い哀愁を感じてた繊細な僕は、

なぜかあの頃、夕日のオレンジ色を見てウンコをしたくなったのを

ふと思い出していた。


「あのさ、映画の最後の場面ね、」

ミキは手の甲にある小さなホクロを掻きながら言った、

「タニアがぼんやりと大通りの車道に目を移すよね。

そこでさ、自分が履いてるヒールと同じヒールが片方だけ
道路の片隅に落ちてるのを見つけるじゃん」

「自分は両方とも履いてるのに」

「そう。で、そのヒールが徐々にアップになって映画が終わったんだけど」

ミキは、それが何を象徴していたのかな、と首を傾げて目をつぶった。

「ヒールはつまり、大切なものさ。人生で大切なもの。

そういうのは近くて遠いんだ。手に入れたようで、手に入れてない、

っていうメッセージさ」

「そうかなぁ」

「このゴルゴンゾーラ、美味しいよ」

窓の外、夜、色とりどりの傘が行き交う。雨になったらしい。

「うそ、傘ないよ」

「よし、走ろう」

「髪が濡れるわ」

「たまには濡れないと駄目さ」


僕らは店を飛び出し、走った。

傘を持たない人たちが、僕らを見ている。

頭皮を伝い雨水が頬を、鼻筋を流れ落ち、まつげが雫を弾く。

雨の味が口に広がる。懐かしい味だ。幼少以来だ。

轍を走る、水溜りにわざと着地する、

僕たちは手をつなぎ、笑いながら走る、

声は吼える豪雨にかき消された。

真っ暗な土手、豪雨に打ちつけられて滝のような音を立てる川面、

雑草の上に倒れこみ、転がり、

僕らは地層のように硬く隙間なく重なった。

耳元で恐ろしいほどの雷鳴が轟き、暗闇を容赦なく切り裂く、

激しい、空と地球が揺れている感じがする。

恐怖と快感が入り混じり、

今まで体験したことのない電流が流れ、神経が痺れ続けるんだ、

叫びのようなミキの声は轟音に消え、僕はもはや宇宙と一体化し、

豪雨と一緒に空から落ちて、地面とミキの中に昇突した。


便意の太陽、性欲の雷雨。

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