第32回1000字小説バトル Entry11
理由は特に無かった。
だけど僕は彼女を抱きしめていた。
彼女は「痛い」と小さく言った。
あの頃は、とても幸せだったんだな と思った。
彼女には男がいた。運悪く、僕の友達だった。
それはあるとき突然、僕に紹介してきた。
それ以来、3人で会っては食事をしたり、旅行に行ったりした。
僕は運悪く、彼女を心から想うようになっていた。
彼女にこの気持ちを打ち明けた瞬間から、悪夢のような日々が始まった。
彼女は「あなたが好き」と言った。
いつも「本当はあなただけが好きなの」と言っているが、
彼女は僕の友達とも別れようとしなかった。
僕は我慢できなくなった。
どうしてコソコソしなきゃならないのか。
もういっそ正々堂々としてしまおうと思った。
3人で会った。
男は僕たちが一緒に来ることに驚いていた。
「オイオイ、何?遅ぇよ2人とも」
「ごめん、今まであたしたちホテルに居たの」
「・・・は?」
「悪いな、そういうふうになっちゃったんだよ」
男の顔は、見る見る変化していった。
「オイ、てめー何人の女に手ぇ出してんだよ!!」
僕はビクともしなかった。
今日は2人で決めた日だった。
ずっと2人で居たかったから
この男が邪魔だったから
2人で決めた日だから
僕は男に殴られた。
僕は男を殴り返した。
男はうつぶせに倒れた。
彼女がポケットから注射器を出した。
とうとう殺ってしまった。
僕たちは、僕のアパートに帰った。
「・・・殺しちゃった」
彼女は震えていた。
「これで、良かったんだよね?」
彼女はそう言って微笑んだ。
それを、僕が理由もなく抱きしめた。
「痛い」
彼女が小さく言った。
唇を重ね、しばらく抱き合った。
「死体 どうする?」
「埋める?」
「どこに埋めんだよ」
「じゃ海に沈める?」
「海?遠いじゃん」
「じゃ焼こうか?」
「焼く場所ないし」
「どうすればいいの?」
彼女の目に、涙が浮かんできた。
邪魔なものは、死んでからも邪魔だった。
いいや、
死んでいなかったんだ。
アパートに横たわっている死体は、動き出したのだ。
僕は驚いて彼女を見た。
彼女は微笑んだ。
注射の針は、見事に僕の首へと刺さった。
液が入ってくるのが分かった。
うっすらと、最後に見えたのは
僕を覗き込む男と彼女だった。
「本当はあなたが一番邪魔だったの」