第32回1000字小説バトル Entry17
モルグコルムの泣き声が止んだ。
おいおい、そんな嬉しそうな顔することないだろう。普通心配するものだろう?
そりゃあボクは予想外なこと大歓迎な人だけどさ、この後に及んでそれはないんじゃないの?
ずっと楽しみにしていたあの瞬間、君はあんなに嬉しそうに笑っていたじゃないの。でも、卵から孵ったアレを見た途端の、君の凍りついた顔といったら…がっかりだよ。あはは。
でも本当に…本当に君には期待していたんだよ。なのに、結局は君もハズレみたいだよ。確かに、世間の常識ってやつからすれば、君の判断ってのがマトモなんだろうね。そう、今までの子達の反応だって皆な、そんな感じだったよ。
え?そうだよ。この儀式に付き合ってもらったのは、別に君が初めてってわけじゃない。
最初にやったのはもうズットズット昔のことさ。そのおかげで僕もズットズット昔からこの姿のままでいるんだから。
そのことについては話すと長くなるから謂わないけど。それに君に今更昔話なんか聞かせたってしょうがないんだよ。
さっさと本題に入るとしよう。そう、モルグコルムの泣き声だ。あれが止まったのを君は喜んでるみたいだね。うん。そう、僕にしたってそれは嬉しい。アレが泣き止んだってことはさ、つまりね、アレが第二次成長期に入ろうとしてるってことなのさ。解るだろう?そりゃ嬉しいに決まってるよね。
で、そこで必要になってくるのが、何を隠そう君なんだ。アレの成長には膨大な栄養が必要でね。それを手っ取り早く摂取するためにアレは親の膣にいるときにチョットした分泌物を出してるんだ。
頭の良い君の事だ。これだけ謂えば充分解るだろう?
まあまあ、そんなに怖がることないじゃないか。ホラ、聞こえてくるだろう?君の大切なベビーが君を欲しがっている。サア、たっぷりと愛してあげてくれないか?
*
そして僕は、成長しきったモルグコルムを抱き上げた。キィキィと不吉な音を出しながら僕にすがりついてくるソレはいつになく立派な個体だった。これだけ大きければ、こいつ一匹であと二十年は持つだろう。
そのときこそ僕は、三百年目の朝を迎えることになる。
一日ぐらい、君のために泣いたって問題はないさ。