第32回1000字小説バトル Entry18
温かい手
毎朝娘を幼稚園バスの来る所まで送る。
ごくごく当たり前の事であるのだが、段々寒い季節になって来ると集まる子供達の足も鈍りがちである。逆に私はというと自宅で仕事をしている為、娘が幼稚園に行く前に家事を全て済ませてしまいたいと思っているので、朝からバタバタ・バタバタと家中を駆け回っている為、体中は朝から一人ポカポカとしている。逆に娘はというとコタツの中にゴロゴロずっと転がっていたので体温が下がり、本当に寒そうである。
「ママ、手貸して。手」
「いやよ。あんたの手は寒いから」
無理矢理私のフリースの中に入ってきて手を握る。思った通り氷のように冷たい。それを合図にしてわらわらと子供達が集まって来た。多少の違いはあるが、どの子も手が冷たい。一応口では嫌がるが手を引っ込める様な事は絶対にしない。経験上、どういう形であれ、この位の年代の子供は口で会話するよりも、肌と肌を合わせて居た方が仲良くなれる事を良く知っているからである。
「ママの手はどうして温かいの?」
「それは朝から元気に走り回っているからよ。ほら、バスが来るまでちょっと走りましょう!」
目の前の公園へ向かって走り出す。とたんに子供達もついて来たので一緒にぐるぐる意味も無くブランコの回りを回った。冷たい空気を突然吸った為、むせてしまった子、鼻と頬を赤く染めてしまった子、元気に私の後ろを追いかけて来る子、様々である。まだまだ子供には負けない!と私は更に元気に加速する。遠く離れた所からは子供達よりも一、二枚更に厚着をした親たちの姿があった。
「元気ですね。もうこの年になると走る事はしたくないです」
「え、だって楽しいじゃないですか」
「汗かくような事したくないです」
五周もしない内に体は気持ちよい具合に温まってきた。手を握り合うと今度は温度差はあまり無い。よかった、よかったと皆で喜んでいる後ろから、娘がノタノタと子供達を押しのけて手を握りにやって来た。そう言えば走っている所をみかけなかったけれど……
「うわー何であんたまだ冷たいの。走らなかったんでしょ」
「ちょっと、がんばれなかっただけ。でも、ママの手が温かいから大丈夫」
こたつむり。一人っ子はこれだからいけない。与えられるのが当たり前だと思っているのだから。
「ママが居るから、みきは走らなくて大丈夫なの。知ってた?」
「知らないです」
楽しい朝の一時は寒い日もこうして続いて行きます。