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第32回1000字小説バトル Entry2

「老人と梅」

 −−−春になりました。K公園の梅林は、花見客で盛況です。

 いやあ、梅はやはり、いいですなぁ。
 えっ、あぁ、すいません。つい、知らない人に話しかけてしまって。どうもこの年になると、無意識ってことが多くなりまして。はぁ、別にかまわないですと。爺めの戯言ばかり、よろしいんですか。あぁ申し訳ない。そうなんですよ、やっぱり年寄りにゃ梅が一番いいですねぇ。ええ、そりゃね、若い頃なんかは、桜のほうが好きでしたけどね−−−若さゆえ、桜の散り際に、んぁんて、爺はいつもこんな案配で。(聞き手、しばし応ぜず)けどね、みて下さい、よくこの梅の木を。どう思われになる。まぁ、地味ですよ。年寄りにゃ地味があう、確かにそれもそうですがね、もっとセツナイ事情があると思って下さいよ。
 梅はね、昔はこんな、老いぼれみたようなカッコじゃなかったって言いますよ。ホントなんですって、信じて下さいな。エヘェヘ、ねぇ。昔の梅はもっと大きくて若々しい、そりゃぁ、桜にも劣らない立派な木だったそうですよ。
 しかし、梅は桜より情が深かったんですねぇ。見上げた腰の疲れる、老いぼれたちを思って梅は、腰の曲がった姿勢でも、見やすいようにってんでぇ、わざわざあのように木を曲げて、枝を目ぇの位置にまで据えてくれたんだそうです。有り難いことでねぇ、こうして年寄りたちと梅の木の、友情は暖められてきた、ってぇ訳なんですよ。
 −−−そういえば確かに、このお爺さんをふくめ、この梅林にいるのは(一応、私を除いて)皆、お年寄りばかりでした。みんなが皆、腰の曲がった人たちばかりではないにしろ、お年寄りたちと梅の相性はまるで、はかられたかのようにぴったりときて、目の前につつましい秘密のようにひらいた花たちを、しわと皺にはさまれた鼻が、うれしそうにひこついている様は、お爺さんのいう、友情の象徴たる光景でありました。

              平成十四年二月七日

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