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第32回1000字小説バトル Entry21

ゆずり葉の家

ブラインド越しの淡い光の中、父親は ゆっくりと目を開けた。
「目が覚めたようだね、父さん。」
枕元の椅子に座っていた 敬が呼びかけた。
「あぁ、敬か。私は まだ生きているようだな。」
「なに言ってんだい、大袈裟だなぁ。」
「母さんは どうした?」
「外で 先生と話している。今 呼んできてやるよ。」
「待て、敬。 今の内に お前に、お前だけに話しておきたいことがあるんだ。」
立ち上がる敬を ベッドの父親は引き止めた。
「えっ、何だよ。」
敬は 座り直す。
「うちの家系は 代々 長男が 18歳になると その父親は死ぬ。跡取りが独り立ちしたら、後を任せて 父親は この世を去ることになる定めになっているんだ。」
「何言ってんだよ、父さん。 変な夢でも見たんだろ。」
馬鹿げた話だと取り合わずに、敬は 立ち上がろうとする。
「本当のことなんだ、敬。我が家は 代々『ゆずり葉の家』と呼ばれていて、これは 何代にも渡って繰り返されている事実だ。私が18の歳、丁度 今のよに 私も おじいさんから 『ゆずり葉の家』の話を聴いかされ、その直後に おじいさんは 亡くなった。」
父親は 目を閉じて ゆっくりと語り掛けた。
「そんなの嘘だよ。父さんは 別に死ぬようは病気じゃないぜ。ちょっと疲れが溜まっただけで、すぐに退院できるって先生が言ってたよ。」
人間の最期の感情の炸裂を必死に押えている父親の表情に、敬は 畏怖し 声を荒らげた。
「敬、これは避けられない運命だ。いつお前に話そうか迷って とうとうこの期におよんでしまった。もう行かなければならんようだ。母さんのことを頼んだぞ。」
父親の目から 涙が零れ落ちた。
「とっ、父さんしっかりしてくれよ。今 母さんを呼んでくるから、ちょ、ちょっと待っていて。いいな、父さん!」
言い残すと 敬は 弾かれたように病室を飛び出した。
敬が廊下に出ると 詰所の前に 担当医と母親の姿が見える。
「あら、敬、どうしたの、そんなに慌てて。」
「か、母さん、父さんが目を覚まして 変なことを言ってるんだ。」
「まぁ、どうしたの。」
「いいから 早く来てよ。」
敬は 泣き出しそうな顔で 大振りに手招きをする。
母親と担当の医師は 顔を見合わせた。
「先生、いよいよでしょうか?」
「ええ、そのようですね。参りましょうか。」
「『ゆずり葉の家の言伝え』を信じて死んでいく夫は とっても哀れ。でも この言い伝えを実行する私も 悲しい定めですわ。」
母親は呟き、氷の微笑で医師を見つめていた。

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