第32回1000字小説バトル Entry23
信じてくれますか、信じてくれますか、いや止しましょう。あなたはきっと信じて下さらないわ、私にはわかりますの。いいわ、あなた、そこに座って煙草を吹かしていて頂戴。私、勝手に一人でしゃべくりますから。御心配なさらないで、なさらなくって結構よ、神など信じちゃいませんから。私、あの世を信じるほど御めでたかなくってよ。だからそんな疑り深そな御目をなさらないで。
私、見てしまいましたの。決して嘘では御座いませんわ。少なくともあなたほどの嘘つきじゃなくってよ。嘘つきじゃなくってよ。決して嘘つきなんかじゃないわ。今畜生! あなたは病気よ! この浮気者め!
いいわ、止しましょう、止しましょう。今はその話は止しましょう。私にも悪い所はあったのですから。確かに私にも非はありました。ありました。確かにありました。だからって何よ! 今畜生! 畜生め!
いや、止します止します、止しますわ。金輪際、この話は致しません。だからそんな疑り深そな御目をなさらないで。そんな目は止してください。止して下さいったら。止して頂戴! 今畜生! 浮気者浮気者! この裏切り者め! 子供まで孕ませやがって、どうする気だ、畜生! 今畜生! 畜生め!
ああ、キリスト様。どうかこの罪深き私をお許し下さい。たった一度の浮気すら許すことのできぬ、このちっぽけで哀れな子羊を、どうかお許し下さい。
あなた、死にましょう。私と一緒に死んでください。今度は冗談じゃなくってよ。私、今度はきちんと始末いたします。何もおっしゃらないで。おっしゃらないで下さい。あなた、もう誤魔化されはいたしません。ああ、止してください、止してください、その目つき。私、狂ってしまいそうですわ。
いいわ、私、一人で死にます。あなた、お幸せに、どうかお幸せに。いえ、皮肉じゃなくってよ。皮肉なんかじゃ御座いません。悪いのは私ですもの。ご迷惑はお掛けいたしません。籍を抜いてから始末いたします。そういたします。
止めましょう、こんな話。御飯に致しましょう。お腹が減ったでしょう。嫌ね、私ったら。御飯前にこんな話をして。美味しいものも不味くなってしまいますものね。止しましょう止しましょう、こんな話。家ん中が暗くなってしまいますものね。止しましょう止しましょう、こんな話、二度といたしません。