第32回1000字小説バトル Entry28
「やれやれ。いったいどうしたの?」
一ヶ月前に飲み屋で知り合ったばかりの大学生の男の子と夜の街を走る。警察に追い掛けられて。
「殴ってやったのよ、警官を」
ネオンが尾をひいて視界を過ぎ去っていく。悪くない。偶然会っただけの彼が一緒に逃げているのはどうしてかよく分からないけど。
「そりゃまた、どうして?」
なんて落ち着いてるのかしら。変な人。
「バス停で痴漢をひっぱたいてやったら、そいつがいきなり大声出して警察呼んだのよ。そしたら警察のやつ私の話も聞かないで交番に来いって強く腕を掴むから頭にきて。被害者は私よ」
「確かに痴漢だったの?」
「間違いないわ」
彼が軽く手をひいて私達は細い路地に入る。
「説明すればよかったのに」
「あいつら全然聞かないの。人前で私のこと犯罪者みたいに扱って。それにね、私、警察って大嫌いなの。人を見下したように威張ってて。自分達だって犯罪まがいのことしてるくせに」
「まっ、あるかもね」
「名誉毀損よ」
「警察っていうのはそのくらいのことならいくらやっても許されちゃうからね」
「それが許せないわ。私の正義は誰が守ってくれるの?」
彼に手をひかれ着いた先は駐車場で、彼はそこに停まる一台のエンジンをかけた。
「乗って」
「なんで?」
「僕もあんまり好きじゃないんだよ、ああいう連中」
「最低。信じられない」
悪いのは痴漢と私を犯人扱いする警察。なのにどうして私達がパトカーに追われなければならないの?
「しつこいなぁ。でも大丈夫。ちょっと奴らを試してやろうぜ」
彼はそう言うと街をぐるぐる走り、少し差をつけるとクルマを乗り捨てた。私達はコンビニの角の路地に身を隠した。二人の警察が彼のクルマの後ろにパトカーを停めるとスモークガラスになっていて中の見えない運転席のドアを叩いた。
「おい、出てこい、おまえら」
おまえ、だってさ。彼が暗闇で肩を竦めるのが分かる。逃げたのか?いや、そんなはずはない。警官達のそんなやり取りの後、一人が「おまえら、ふざけんなよ」と大声で言って彼のクルマのドアを思いっきり蹴った。そのとき通りに大きな爆音が轟いた。
「人のクルマ蹴ったりするからだよ」
警官二人だけが爆発に巻き込まれた。自業自得だ。
「さっ、行こう」
私の手をひき歩き出す。
「クルマ爆発しちゃったよ」
「いいよ。古いクルマだし、それで君の正義が守れたんならそれもありかな、なんて」
こうして私にも素敵な恋人ができた。