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第32回1000字小説バトル Entry29

太陽の季節

 あたしの姉は、いつも空を見ていた。
 宝石のように黒い髪を背中に垂らし、ベランダで飽きもせずに、いつも空を見ていた。
 綺麗な、とても綺麗なあたしの姉はいつも空を見ていた。


「ごめんね、いつも宿題観てもらって」
「良いのよ」
 そう言いながら姉はすらすらと問題を解いている。
「ユキは勉強より絵の方が好きだものね」
 その横顔の美しさにあたしはいつもどきどきする。
「あーあ。勉強なんてくだらない事なんで有るんだろね」
「仕方無いわよ、世の中くだらない事ばかりなのだから」
「あ、お姉ちゃんでもくだらないなんて思うの?」
「思うわよ」
「へえ意外」
「あら、そう?」
「うん。お姉ちゃんはそんな事思わないと思ってた」
「そんな事も無いわよ」
「だからいつも空を見てたりするの?」
「空?」
「うん、いつも見てるじゃない」
「あははは」
 突然姉は笑い出した。
「な、なによう」
「空なんか見てないわよ。空なんて、ただ青いだけじゃない」
「じゃあ、いつも何を見てるの?」
「太陽よ」
 そう言って姉は窓に顔を向けた。
「また大きくなってる」
「え?」
「ユキ、太陽って少しずつ大きくなってるって知ってる?」
「うん、学校で習った気がするけど」
「何の為か知ってる?」
「さあ」
「この世をね」
「この世を?」
「この世を焼き尽くす為よ」
 そう言って姉は笑った。
 その笑顔を見てあたしは様々な事が解った気がした。何故姉はこんなに美しいのか。一体何を求めているのか。
(ああ)
 なんだかひどく解ってしまった気がした。
「そうなんだ」
「そうよ」
 彼女はゆっくりと続ける。
「世の中ってさ、くだらない事ばかりじゃない。本なんて読み飽きてしまったし、馬鹿な人ばかりだし、みんな嘘つきで」
 なんて楽しそうなのだろう。
「そんなこの世を焼き尽くす為に太陽は、少しずつ少しずつ大きくなってるのよ」
「そっか」
「そうよ。だって」
 なんて美しいのだろう。絵筆なんかでは追いつけない位に美しく、本当に美しく。
「だって解るもの。少しずつ大きくなるのが解るもの。毎日見てるから解るもの」
 太陽を背に、笑う姉は美しかった。どうしようも無く美しかった。


 姉はあたしが15の時に事故で亡くなった。呆気なく彼女は一人で逝ってしまった。
 花に囲まれた彼女の棺を見てあたしは、ああ、お姉ちゃんの願いは叶ったのだ。叶ってしまったのだ、と思った。
 そう思って泣いた。


 この物語がハッピーエンドかどうか、あたしは知らない。

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