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第32回1000字小説バトル Entry30

甘く切ない話

「ねえ、ワタシのこと、愛してる」
ケイコは潤んだ瞳を上げてススムに囁いた。甘く切ない声で。
「モチロンだよ。世界中でケイコが一番好きさ。君となら死ねる!」
ススムは真面目な顔で断言する。いつもならぷっと吹き出すところだが、窓の外を流れ落ちる夜の雨が不思議な気分にしてくれる。ケイコは素直に嬉しいと感じて、パッと顔を輝かせて言った。
「うれしいわ。ワタシもよ。この気持ちは変わらないと誓えるわ。死ぬまですきよ。いいえ、死んだって二人は一緒よね。世界の終わりが来たって、ワタシ達の愛を邪魔できないわ」
二人は堅く愛を誓い合った。恋人という人種が産まれて、何十万、何億万組のカップルが交わしたであろう陳腐なセリフが今夜も繰り返されていた。
「ワタシが死んだら、どうする?」
ケイコが甘えた声で問う。
「モチロン。ボクも後を追うよ。君一人で逝かせやしない」
ススムの答えにケイコは満足げに頷き、頬に軽くキスした。
「じゃあ、シュウマツの日にはわたしに何をしてくれるの」
「君の好きなモノを何でも食べさせてあげるよ」
「ホント! ワタシ、ラーメン食べたいわ。ホラ、駅前の老夫婦がやってる。最期に食べるんだったら、断然あそこのネギラーメンよ。仕上げのゴマ油の匂いは食欲をそそるのよね」
「そんなんでいいの。お安いご用だ。さあ、今から出かけようじゃないか」
「でもこんな時間にお店開いてるかしら?」
「ここに来る前に看板に灯がともっていたよ。それにあそこのご夫婦ならどんな時でも店を開けてるよ。いつか働きながら死ねたら本望だって言ってたじゃないか。仕事が生きがいなのさ。きっとボク達が行けば喜ぶと思うよ」
ススムはそう言うとカギを持った。ケイコがそのカギをゴミ箱に捨てる。チャリンとガラスでできた地球のキーホルダーが鳴る。二人は微笑みながら仲良く扉を開けた。カサはささない。今は雨さえもいとおしいというように。
二人のいなくなった部屋ではつけたままのテレビが青白い光を放っている。単調なアナウンスはこの国へ落ちる核弾頭の到着時間をカウントしていた。
THE END

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