第32回1000字小説バトル Entry7
少女が家に遊びに来た。その少女は彫りの深い顔を
しており、微笑んだ口元と淋し気な目が印象的だった。
そして、彼女はもう秋だというのに、真っ白な半袖の
ワンピース一枚だった。
「私、ハーフなんだ。」
彼女は小さな声でつぶやいた。彼女の父親はここ数年、
テロリズムなどで危険視されている国の生まれだった。
明日、彼女は父親と共に帰国する。
私は彼女とアルバムや本をひろげ、お菓子を食べながら、
たくさん話をした。ゲームもした。私達は子供みたいに
ハシャいで、ハシャいで、声がかすれるまで大笑いした。
夜遅くなって、布団に入ってからも、話は尽きることが
なかった。
翌日、私は、彼女と町を歩いた。
出発は夜の便だという。私は町並みをひとつ、ひとつ、
丁寧に説明して歩いた。古びた町のあたたかさを伝え
たくて。
やがて町は夕暮れ色に染まり始めた。私は一生懸命、
目に入るものを片っぱしから、彼女に説明していた。
必死だった。彼女をなんとかして引き止めたかった。
そして、
「もう、行かなくちゃね。」
彼女は言った。
空はもうオレンジ色から藍色に変わっていた。
私は、
「最後に、あの公園だけでも・・・」
言いかけた時には、遠ざかって行く彼女の白い
ワンピースがユラユラと濃い青色の闇の中に
見えただけだった。
あなたは行ってはいけない。
もっとこのあたたかい場所にいなくてはいけない。
もっと幸せにならなくてはならない。
あんなに楽しかったのだから。
もう二度と会えない、という確かな感触が頭にあった。
悲しみと、ざわざわとした、やり場のない、怒り。
私はもっと彼女と話したかったのだ。笑いたかったのだ。
彼女に伝えたぬくもりが、その時、確かに存在したことを
いつまでも彼女に覚えていて欲しかったのだ。
私は彼女の名前すら知らない・・・