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第32回1000字小説バトル Entry8

ざる蕎麦とコロッケ

 ようやく駅についたけれど、そのまま家に帰る気にはならなかった。一杯やって帰りたいところだけど、サイフの中身はこころもとなかった。腹も減っていたし、とりあえず駅構内にある立ち食い風蕎麦屋に入った。イスがあって座れるのがありがたい。冷たい蕎麦を食べて、気持ちをシャッキリさせたかったけれど、冷たいものはざる蕎麦しかなかった。それだけだと物足りないので、少し迷ってからコロッケを頼んだ。注文して、ネクタイをゆるめると、急に疲れがでてきたようだ。
「話がちがうじゃないですか」
部下が自分をなじる声が聞こえる。
「風向きしだいでころころ変わるんですね」
捨てゼリフを残して会議室を出ていった。そのあと、部下はわたしと口をきこうとしなかった。終業の時間がきたら、何もいわずに黙って帰っていった。
 そう言われてもしかたないのかもしれない。部下と二人で相談した案を会議にだしたら、課長や部長は、あまり乗り気ではなかった。これは見込みがないな、と思ったわたしは、早々とその案を見切ってしまった。いくらいい案を出しても、ダメなときはダメだ。また、タイミングを見計らって切り出せばいい。そう思っていた。しかし、部下はそう思わなかった。 少しもねばらずにあっさりと案を取り下げた。部長や課長のいいなりになって、部下をさっさと見捨てた。そう思われたようだ。
 ざる蕎麦のコロッケができあがった。コロッケは揚げたてではないけれど、コロモがかりっとしていた。たぶんできあいのコロッケを軽くオーブンで焼いたんだろう。どうやって食べようかと少し考えたあと、コロッケを二つに割った。最初の半分はソースをかけて食べた。残りの半分は、そばつゆにつけこんで食べた。なかなか美味かった。こんなささいなことで満足してしまう。自分はなんてつまらない人間なんだろうか。だから部下や上司の間に挟まれて四苦八苦してしまうのかもしれない。さいごの蕎麦をすすりこんだあと、やっぱり、一杯飲みたくなった。

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