第33回1000字小説バトル Entry14
地震がおきたとき、わたしは一人で部屋にいた。地震はかなり大きくて、縦に揺れたと思ったら、今度は横にゆさゆさと揺れた。そのとき、わたしはあいつのことしか頭に浮かばなかった。
わたしは腰がぬけていた。あいつの顔を思いうかべながら、なにか祈るような気持ちで地震がおさまるのを待った。ようやく静かになったとき、わたしは少し涙ぐんでいた。
何か音楽が聴こえてきたような気がした。「なんだろう」。そう思ってしばらく耳をかたむける。曲は、「I want you」。あいつからもらったオルゴールの曲だった。この地震でオルゴールがひっくり返って、フタがあいたようだった。
はじめてあいつに抱かれたとき、たまたま地震があった。わたしは気が強いと思われているけれど、地震や雷にとても弱くて、かなりうろたえてしまった。あいつはわたしを抱きしめてくれて、だいじょうぶだよ、と言ってくれた。それがなんだかとても頼もしくみえてしまったのだ。向こうもわたしを意外とかわいい女だと思ったらしい。恋愛なんてこんなもんである。
あとであいつの汚いアパートへ行ったとき、線路のすぐそばで、電車が来るたびに騒音と振動がした。地震のときにあわてなかったわけだ、と納得した。それ以来、恋の魔法? は少しずつはがれはじめたようだった。
はじめてのプレゼントは、オルゴールだった。なんでみんな男はオルゴールを女に贈りたがるんだろう。そしてあまり嬉しそうな顔をしないと必ず言うのだ。「かわいくねえなあ」、と。いちおう喜んだふりをすると、あいつは単純に嬉しがっていた。あいつがずいぶんつまらない男にみえたものだ。
あいつとはつまらないことでケンカして以来しばらく会っていない。べつにこれっきり自然消滅しても、わたしは後悔しないだろう。でも、いま頭にうかぶのはあいつのことばかりだ。しずかに涙が頬をながれていく。地震のせいなのか、あいつのせいなのか、もうよくわからない。
そのとき、ケータイの着メロが鳴った。ケータイはどこに置いただろうか。音に耳をすます。曲は、「I want you」だった。