第33回1000字小説バトル Entry3
豆しるの中でスプーンが溺死していました。それを助けるべく、わたしは白い花福豆をひとつずつ別のスプーンですくって口に入れています。しるの中に沈んでいるスプーンはあお向けで、うっすらとにごった水の中に静かに横たわっていました。たとえて言うなら、映画のワンシーンのような(美しい少年が屋上で両手を広げて、背中から眼下にスローモーションで、落ちてゆくというより降りてゆくというほうが正しいような)そんな死にかたで、そして舞い降りた先がプラスティック製の透明な容器で水深三センチほどの豆しるの中だったのです。
豆しるの中で溺死したスプーンの救出方法は、一緒に戯れている花福豆たちを少しずつ少しずつ容器の中から取り出してわたしの口に運び、うっすらとにごった水溶液の水かさを少しずつ少しずつ減らしてゆくしかなかったのです。ほら昔読んだイソップ童話の中に、水を飲みたいカラスがツボの中に小石を落としてゆくというのがあるでしょう? 少しずつ小石を落として少しずつ少しずつ、少しずつかさが増えてゆくツボの中の水。そうしてカラスはツボの中の水を飲むことが出来たのです。(その其れとは全く逆の方法です)
豆の入った容器を斜めに傾けたり逆さまにしたり、手を入れて直接溺死したスプーンに触れてはいけないのです。そういう決まりになっています。(それはわたしが決めました)
わたしは最初はうっとりと溺死の様子を眺めていましたが、このままほおっておくのはあんまりなので救出することにしたのです。白い花福豆をひとつずつ別のスプーンですくって口に入れていくのです。スプーンを救う為に食べ続けるのです。
ぼんやりとしていたスプーンの体が、うっすらとにごった水溶液の中で気を付けの姿勢をしたまま頭の方から空気中に顔を出しました。そしてゆっくり意識を取り戻し、身震いしました。どうやら気絶していただけのようです。
「アブナイアブナイもう少しで死ぬところだった。気をつけてくれたまえ」
お詫びにわたしはスプーンを弱酸性の石鹸水でやさしく洗ってあげました。
だけどわたしはこうも思ったのです。あんたがホントに死んだと言えるときはゴミ箱に捨てられた時だ、って。
「死んでなくても捨てられた時にあんたの死がやってくる」
もうタベモノをすくう(救う)ことも出来なくなるなんてね!
死んでいなくても死んだことにされているゴミ捨て場はだからとっても騒がしいのです。