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第33回1000字小説バトル Entry33

陳列

 極彩色の花畑を抜けて、店に入った。何人かの先客がある店内には、白い棚が並んでいた。棚には箱が陳列されていた。大小取り混ぜた色とりどりの箱の正面には、一様に文字が印刷されていた。ここで私がやらなければならないことは、積み上げられた籠を取り、その中に箱を過不足無く収めていくことだ。店内の客は各自思い思いの方法で入念に箱を吟味していた。
 父親、母親、兄弟、両手、両足、胃袋、鼻の形、癖、性格、星座、血液型……。基本条件が揃ったら、道筋を決めていく。居住地域、育成環境、出会う人、感動する事象と時期、決断の時。運命的な出来事とその配分……、初恋、恋人、そして伴侶。ぼんやりとした思いが浮かび、咽喉の奥を苦味が走った。この感覚は何だろう。
 私に何かを暗示しているのだろうか、警告しているのだろうか。私はためらいつつ、幾つかある伴侶の箱から比較的美しい箱を注意深く選択し、籠に収めようとした。しかし、不思議なことに籠には既に伴侶が収まっていた。
「そういう事だったのか」私は声に出し納得した。
 春の温もりのような布団の中、新婚当初の幸せを悪戯に試すような新妻の質問に答えたのか。あるいは冬の最中、仕事の失敗から心労が病を引き起こし、床に臥した夫をかいがいしく看病する妻に、「何もしてやれないが……」と切り出したのか。末期の病室で、最後の言葉として残したか。いずれにしても「今度生まれてきた時も……」という定番の約束。今回もそれに引き摺られている様だ。
 この手の約束は、絶対に守らなければならないものではない。しかし、片方が守らない場合、とても複雑な問題になる。向こうが選んで、私が選ばなかったとしたら……。籠の中に納まった伴侶の箱を見つめた。それはまだ、ただの箱だった。私は比較的美しい伴侶の箱を棚に戻した。
 職業、収入、地位、出世の早さ。持病、引退、転職先、老後の楽しみ。そして、死期。一通り籠に収めてみると、もう余り隙間がない。音楽と文学は今回も小さな箱にすることにした。
 レジには看護婦姿の女性がいた。女性の後ろには、白衣の男が注意深い視線を投げていた。私の選んだ箱がひとずつチェックされていく。最後の箱が籠から出された。見覚えのない箱だ。小さいながら綺麗な箱には愛人の文字が刻まれていた。無意識にそんな箱を選んだようだ。これも前世の因縁か。
 「ハッピイバースデーツーユー」女性の言葉に送られて店を出た。

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