第33回1000字小説バトル Entry35
それはおおよそ一ヶ月ほど前、2月14日のことだった。
皆はチョコを貰ったりしているのに、俺は……。
朝から独りで、ふてくされていた俺の前に、
ひとりの女の子が立っていた。
「よっ、モテない君。」
よく見ると幼馴染の女、知子だった。
普段なら少しは俺も話す気になろうが、今日に限って言えば
女性と話す気がしない。寄ってくれても嬉しくない。
無言のままうつむいていると、さっきの言葉が勘に触ったと思ったのか、
知子は小袋を俺にさしだしてきた。
「チョコレート、あげるよ。小さいけど」
一瞬俺は何が起こったのか分からなくて、俺はキョトンとしたが、
すぐ状況を飲み込んで、お礼を言った。すると、
「そのかわり、お返しはきっちりとね!」
……やっぱり知子は俺の前では幼馴染なだけだ。
とにかく、本当に、小さい小さいチョコレートだった。それに
やけに綺麗な所を見ると、既製品で済ませたみたいだ。
それを見て、アイツに何かお返しをしないと、という気持ちが沸いて来た。
何となく、なのだけど、やっぱり15年のカンだ。何か返さないと
アイツは怒るんだろうさ、なんて思いながら、返すものを考える事にした。
自分で買いに行くのはなんか照れくさいが、かと言って母さんに頼めば
「誰にあげるの?ねぇねぇ」
と聞かれることは明々白々だし。友達でもまた然りか。
となると……どうやら自分で作るしかないみたいだ。
こうして、夜中にこっそり作る事を決意したのだ。
その日の夜、家族も寝たみたいなので、こっそり台所に行き、
昼のうちにスーパーで買ってきたバターの箱を開ける。
最初はアメを作ろうと思ったのだが、どこかの本に
アメをあげると絶縁を意味するとか書いてあった気がするので、
無難にクッキーを作る事にしたのだ。
バター、粉、卵、牛乳と、材料を次々に入れてひたすらこねる。
ふっと知子の顔が浮かんで、やる気は増してきた。何故だろう。
午前2時、焼き終わった時には顔がほっとしていた。
こういうのを愛情って言うんだろうか。知子の喜ぶ顔が目に浮かぶ。
なんて、ガラでもない事を夜は考えてしまうから不思議だ。
もう少しで、クッキーを入れる袋にカードを入れるところであったからして。
次の日、素っ気無い袋に詰めて、知子にそのクッキーを渡した。
「どうかな……。」
不整合なクッキーをひとくちかじる知子に俺は聞く。
彼女は答えた。
「ちょっと塩味が利きすぎじゃないかしら?」
どうやら、バターを無塩にするのを忘れていたようだ。