第33回1000字小説バトル Entry36
オゾン層の破壊が進んだ21世紀中頃。皮膚癌を発症する人達が蔓延した。過去には色素性乾皮症(XP)と呼ばれた遺伝子異常は、過去の病状と比べても飛躍的に悪化し、紫外線を一度に数分浴びるだけで死んでしまうという、悲劇的な結果さえ生み出していた。
効果的なDNA操作には、正常な遺伝子が必要とされていたが、健康なDNAを採取したくても、その遺伝子を持った生物はこの地上には存在しなかった。
「博士とうとう完成しましたね」
「うむ。これで過去の人間から遺伝子を採取出来れば、これからの地球の未来も明るいというものだ」
完成したばかりの時空転送機を見ながら、バン博士は明るい未来を思って感慨に浸った。博士のその左腕の袖からは、子供の頃誤って日光を浴びてしまった白く引きつれた火傷の跡が見えていた。
早速プロジェクト計画は開始された。世界中から選び出されたエリート達には厳しい訓練が施された。
そして半年後、全ての準備は整った。
「このプロジェクトは、全人類の希望だ。よろしく頼むよ」
パイア連邦議長の固い握手が、訓練を終えた彼ら一人づつに、崇高な固い決意を漲らせた。
「それでは、未来の為に行ってまいります」
目的地は古代バビロニアから中世ヨーロッパにかけ、行っては戻るという、一箇所わずか2時間という短い時間で何度も遂行された。
濃くなってきた霧の中で、ふたつのシルエットがひとつになった。
男は女を強く抱き寄せ、唇を首筋に這わせていた。始めは女も少し抵抗していたが、暫くすると女はぐったりとなり、男の手から滑り落ちた。
女から離れた男は、赤く血に染まった口元に笑みを浮かべながら、霧に溶ける様に消えていった。
過去に戻った彼らの使命は、夜の街で健康な人間を探し、効果的な方法でDNAを速やかに採取し持ち帰ることだった。
時空転送機では何も持って行けなかった為に、DNAを体内に保存出来る様、改造された硬質な漏斗状の舌は、被験者の身体の柔らかい部分からDNA分析に一番効果的な血液を抜き取っていた。
ひょっとしたら魔物か何かだと思ったかも知れない、過去に戻った男の中にはそう思った者もいた。
この計画によりXPが根絶された今。過去にXPの患者が、吸血鬼と呼ばれ迫害された批判記事に、連邦議長は笑った。
「過去の人間がどうしたというんだ。それに、なん千年も前の事で既に時効だ」
一部の反発はあったが、議長解任はなかった。