第33回1000字小説バトル Entry37
ある日のこと。夜の公園を散歩していると、人間大の白ウサギがベンチに座って月を眺めていた。ベンチ裏にはリヤカー。1メートル程の巨大なにんじんが山積みに乗せられている。
「月…。綺麗ですね。」
僕が声をかけると、ウサギはぴょんと立ち上がった。
「やぁ、どうですか。美味しいにんじん買っていきませんか。ウサウサ」
ウサギは親しげに話しかけてきた。少し首を傾げる仕草が妙に可愛い。どうやらこのにんじんは売り物のようだ。
「大きい割に安いよ〜。一本200円さ。」
確かに、この大きさにしては格安だ。
「にんじんかぁ…。今夜はシチューでも作ろうかな。」
「それがいいよ。ウサウサ。」
声が弾んで鼻がピクピク動く。なんだか嬉しそうだ。
「お客さん。うちの野菜は国産ではないけれど、特別に美味しいよ。なにせ、僕が故郷の畑で精魂込めて作った、正真正銘、無農薬の新鮮野菜だからね。しかも輸送中だって農薬は使わないんだ。それでもこの鮮度、この品質を維持しているんだよ。」
そう言っていそいそとベンチ裏に回ると、巨大にんじんを一本抱えて戻ってきた。
「どう、良く見てよ。いい野菜でしょ。これぞ自然の奇跡さ。」
確かに採れたて野菜のようなみずみずしさだ。僕は素直に感心した。外国産でも新鮮なまま運ぶことが出来る時代になったんだなぁ。買って損はないかもしれない。
感心しつつ財布を取りだすと、ウサギはすかさず
「まいどありぃ」
と白い前足をさし出した。
「毎度ありぃだって。外国のウサギさんですよね。日本語、お上手ですね。」
苦笑混じりに褒めると、ウサギは照れたように笑った。
「ありがとう。でも日本語は憶えるのに苦労したよ。ウクライナで日本語話す人は居なかったしね。」
財布の小銭をまさぐっていた僕の手がピタリと止まった。
「出身は…ウクライナ共和国ですか?」
「そう、いいところだよ。日本と違って何もないけど、静かで…空が綺麗で…」
ウサギは故郷を思い出したのか、懐かしそうに目を瞑って髭をサワサワ動かしていた。
「…この野菜の産地はは地元で?」
「そう、チェルノブイリ産さぁ。」
むしろ誇らしげに答えるウサギ。
「…僕、やっぱり止めておきます。」
財布を閉じると、ウサギは赤い目をいっぱいに見開いて驚いた。
「どうして〜??」
「考えたら…シチューは昨日食べたし。」
苦しすぎる言い訳を呟く僕。ウサギの耳が垂れた。とても残念そう…
ごめんね。でも…たぶん自然の奇跡じゃないから。君もにんじんも。