第33回1000字小説バトル Entry5
「君が持っている、それはなんだい? 卵?」
「そう。卵よ――トキの卵よ」
「トキって……天然記念物の!?」
「違う。トキ――時間の卵」
「ああ……時ね。で、その――時の卵が割れちゃうと、どうなるんだい?」
「時が止まるわ」
「へえ、そいつは一大事だ」
「……信じてないわね」
「いやいや、そんなことはないぞ」
「嘘」
「嘘じゃないって」
「じゃあ証拠を見せて」
「証拠って……ああ、そうだ。実はね、僕も珍しい卵を持っているんだ」
「……何の卵?」
「何だと思う?」
「人間」
「人間の卵か。確かにそりゃ珍しい。けど、残念ながら僕の持っているのは人間の卵じゃない」
「……じゃあ、珍しくないわね」
「そんなことはないぞ。よし、特別に教えてあげよう。――僕が持っているのは、信頼の卵だ」
「……信頼?」
「そう、信頼。僕の卵には、人を信じる心が入ってるんだ」
「……ふうん」
「あ、信じてないな、その顔は」
「……わたし、信頼なんて見たことないもの」
「うん、僕も見たことはない」
「……見たことがないのに、どうして中身が信頼だって解るの?」
「じゃあ、訊くけど、君のその卵の中に時間が入ってるって、どうして解るんだい? 僕は、時間も見たことがないよ」
「わたしはあるわ」
「へえ、それは凄いね。――ねえ、時間がどんなものなのか、僕に教えてよ。いいだろ?」
「……いいわ。じゃあ、これを持って」
「その卵を?」
「そう。気を付けて……そうしたら、ゆっくりと卵を耳に当てて」
「こう? ……あ」
「聴こえるでしょ……時間の音が……」
ザァァ サザファァ クスゥゥ クズスゥゥ
「ああ……聴こえる」
「これで信じた? これが時の卵だって」
「ああ」
「じゃあ、わたしにも信頼を見せて」
「いいよ。――もう少し僕に近づいて」
「……こう?」
「もう少し。顔がくっつくまで……ほら、聴こえるだろう?」
トクン ドクン トクン ドクン
「……うん」
「これが、信頼の音」
「……でも、わたしの中にも、この音があるわ」
「残念ながら、信頼の卵は、時の卵ほど珍しくはないんだ。僕だけじゃない。君も、誰も、みんな持ってる」
「そう……なの?」
「そう」
「……でも、知らなかった。わたしがこんな卵を持ってたなんて……」
「そうだな。みんな持ってる。だけど、それに気付いてる人は、とっても少ない」
「じゃあ、ありがとう。教えてくれて」
「どういたしまして。大事にするんだよ」
「うん……もう、行くね」
「ん……元気でね」