第33回1000字小説バトル Entry6
霧と新鮮な空気が漂う山中で、古い神社を自然と見付けた、参拝者のいない早朝。
門までの石畳みの階段は、気が遠くなる程長いのです。
やっと辿り着いた私は本堂ではなく、敷地の中央にある大きな窪みに綺麗な水が溜っているのを見付けて、そちらに行きました。
向かって右奥の木柱に、古びた箱があったので、私は何円か入れてお祈りしました。
「おい」
芯の太い声に私は驚いて振り返りました。
そこには西洋風の青年が立ってました。
「此処は賽銭を入れる所じゃないから」
怒られる気がしましたけど、どうやら元々怖い顔らしい。
「池に物を入れると金が出て来るんだぜ」
「へ?」
昼に近付くと、参拝客が池の前に長蛇の列を作ってました。
箱に物を投げるとその物は消え、代わりに池からお札が飛び出して持ち主の元に帰るのです。
私が呆然とその有り様を眺めてると、また先程の青年が来ます。
要らなくなった金目の物でも持って来てたら良かったのにとすねてたら笑ってました。
と、池から白い光が拭き出します。
皆は勿論驚きました。
そこから短い黒髪、可愛らしい少女が現れます。
彼女が地面に降り立つと、私と居た青年はすぐ走り寄って彼女を抱き締めました。
どうやら二人は恋仲、少女の方はもうこの世の人ではない様でした。
彼女との再会に喜んでいた青年はやはり西洋人のハーフで、恐らく神主の息子か親戚なんでしょう、彼女から坂本一派と言う単語を聞きます。
この奇跡にTV局が取材に来ます。
リポーターは女の人と堺正章でした。
でも、取材開始寸前、二人の前に彼女が現れます。
ふわふわ浮かんで、半透明でした。
「御免なさい、私そろそろ消えます」
私は慌ててあの青年の事を示唆すると、彼女は満面の笑みで言うのです。
あの人の記憶からも、皆さんの記憶からも私は消えますと。
今日は彼との杭を残さぬ様に来たのだと。
彼女は、自分が死んでから神社を離れない彼にやりきれない想いで、神社から外の世界に飛び出して欲しいと願っていたのでしょうか。
「本当に有難う御座居ました」
皆に向かいそう告げると最後に、彼女は私の方に会釈して微笑し、消えて行きました。
そこで目が覚めました。
あの世界の住民達はもう、誰一人彼女の事を覚えていないのでしょうか。
せめて私は、この夢を忘れる前に彼女の存在を文字に留めました。
それにしても彼女はどうして最後、私に笑いかけたのか。
何となく、早朝に賽銭箱に入れたお金が関わって来る気はするんですけど。