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第34回1000字小説バトル Entry16

フランスパン風パン

 今日道を歩いていたらフランスパンに出会った。ヤツは地面に寝ていたので、まじまじと見ていると私の顔を見て「よっ」と言った。私も「よっ」と言い返した。

フランスパン(以下、フ)「雨ばかり続くねー」
私(以下、私)「ほんと、雨ばかり続くねー」
フ「最近調子どうなの?」
私「んー、胃腸の具合が悪くてね。昨日もゆでキビを2本も食べたものだからさ」

おおっと。
私は言いかけた言葉を飲みこんだ。
危ない危ない、ヤツのペースにはまるところだ。初対面のフランスパンに個人的な腹具合の悪さを打ち明けてどうする。もしや個人情報を聞き出してどこかに密売するつもりかもしれない。私はすぐに気持ちを引き締め、こちらから質問をすることにした。

私「ところでオタクは何でそんな所に寝ているの? さっきからほら、通行人たちの邪魔になっているじゃないか」
フ「……人を待ってるんだ」
ヤツは少し寂しそうな顔をした。

フ「生まれた時からずっと待っていたんだ。いや、待っていたような気がするというのが正しいかもしれないな。おいらなんてニッポン生まれなのに、フランスの血が流れているからって外者扱いされてさ。フランスパンなんて名ばかりだよ。本当はハルユタカで出来ているんだ。笑っちゃうだろ? 所詮本物のフランスパンにはなれやしないのさ。フランスパン風パンだよ。北欧のクリームパン(カスタード風)みたいなもんさ」

ヤツはとても早口で、何を言っているのかちっとも聞き取れなかった。だけどなんだか投げやりになっているみたいなので、私は慰めることにした。

私「君の気持ちはよくわかった。生きていれば色々あるさ、生きていればこ」
フ「あ、待ち人来たり!」

私の感動的なセリフが言い終わらぬうちにヤツは大声をあげた。振り返ると自転車に乗った中年の主婦がこっちに向かって勢い良くやってくるのが見えた。

「あったあった、ここで落としたんだわー」
私はフランスパンを拾い、主婦のところまで持っていった。
「あら、ありがと」
主婦はフランスパンを受け取ると自転車の後ろに付けてあるカゴにぎゅうと入れた。
「今度は大丈夫よね。隙間に押しこんだから、飛び出しやしないわ」
主婦は独り言のように言い、もと来た道を走り始めた。

その時、私にしか聞こえぬ声でヤツが言った。
「今夜はチーズフォンデュなんだって!」
ヤツはとても嬉しそうだった。

幸せになれよ、と雨粒の向こうに小さくなる自転車カゴにむかって私は呟いた。

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