第34回1000字小説バトル Entry19
暑い最中の出来事。
縁側に面した和室に、いつものように祖父の姿がある。
半死半生の状態でそれでも息をしている。
周期的に意識を取り戻す祖父の姿は、何にもまして痛々しく、時折見せる苦しげな顔や荒い吐息は、祖父の寿命が尽きようとしていることを示していた。
「満月」「の」「夜に世界」「は終わ」「るの」「だ」
途切れ途切れの言葉に、私は目を覚ます。
看病の途中で眠ってしまった罪悪感を拭い、私は祖父の口元へと耳を近づけ極小さな吐息交じりの言葉に耳を貸す。
時は流れを増す。
満月の夜に世界は終わるのだ。
満月の夜の度、世界は終わっとるのだ。
まず始めに秩序が壊れる。
人々の理性が壊れる。
建物が壊れる。地面が壊れる。人が壊れる。
星がうねり、一箇所に集まって弾け飛ぶ。星が降り注ぐ。
家族が死に、皆が死に、犬が死に、鴉が死ぬ。
全てが死に絶えた後、足元にあった全てが粉になる。
何もかもが死ぬ。
儂だけが生きている。
儂だけが死なない。
空気が無くなり、苦しさに喘いでも、まだ死なない。
死ぬ事だけを望み、頭の中をタナトスが駆け回る頃、儂は美しく光る満月に気付く。
何もない暗闇の中、太陽さえない世界で、月だけが光っておる。
酷く滑稽だ。
月が全てを壊すのだ。
儂はあまりの馬鹿らしさに笑う。
月は怒り狂い、身体を七色に絶え間無く変え続ける。
儂は笑う。肺の中の空気が無くなっても笑う。月は怒る。狂う。
それが永遠に等しく、続く。
やがて儂が死ぬ頃、七色の月は弾け、虚無を包む。
儂の足元に粉が集まり、地平の先まで形作る。
倒れ臥し、それを見つめ続ける。
何処からか赤いものがぞわぞわと集まり、徐々に厚みを帯びて行く。
それが人だと気付くのは、大概内臓が形を持った時だ。
儂は嘔吐する。
胃の中のものが無くなっても嘔吐し続ける。
見る間に全てが元に戻り、朝を迎えている。
儂は
祖父、の言葉、が、途切れる。死。死。死死死。
家族に知らせなくてはなら、な、い。
私は縁側に出ようと障子を開けた時に見えた満月
祖父の言葉が頭の何処かで熱を帯びている祖父の荒唐無稽な遺言或いは壮大な独り言を否定できずにいる自分がいる彼にとっての世界は確かに満月の夜に終わり死死死死死死死んだ何かの予感がある私は何か上から抑えつけられたような気がして膝からくずおれると秩序が理性が人間が溶け出し空が星が降り注ぎ空に光るは満月