第34回1000字小説バトル Entry22
…通り昼から厳戒態勢に入っております。皆様、午後7時よりご自宅から出ない様にして下さい…
アナウンスが響き渡る。思ったより家の近くにスピーカーがあるんだと、初めて知った。
確率は約94,7%。驚異的な数字らしいけど僕は結構ふつうだ。普通に起きて学校に行って、半ドンだったけど、普通のナーナと一緒に帰った。
いつも通りの日。今日地球に星が落ちるなんて嘘みたいな。
母さんは落ちるか落ちないかで言えば1/2なんだから、と屁理屈を言っていたけど何だか負け惜しみみたいに聞こえた。だってきっと星は落ちる。予感とかじゃなくて、政府や金持ちはとっくに他の星に逃げてしまったのが何よりの証拠だから。
「…潤。起きてる?」
窓の向こうから声。ナーナだ。ナーナの家と僕の部屋はべランダから行き来できる。
「出といでよ」
明らかに僕の部屋にそぐわないと思われる極彩色のカーテンをめくると、なぜか制服を着たナーナが居た。夜を背にして。ナーナは極彩色に似ていると、ふと思った。
外に出ちゃいけないんだよ、と言うと、知ってる私あの馬鹿でかい放送で目が覚めたんだからと言う。そう言うと思ったけど別に言ってみただけだ。他に反論する理由が無かったので、大人しくベランダに出た。
硝子窓にもたれて座ると揺らぐ月が覘く。
「何で制服なの」
髪のすき間からセーラーカラーが見える。ナーナが笑うと一緒になって揺れた。どんな格好すればいいか判らなかったんだもの。
それもそうだな、と思い、本気でちょっと困ってるみたいだったからそれ以上言うのはやめた。
「…おばさん大丈夫?」
「解んない。でも、泣いてた」
僕はおばさんが泣いてる所なんて見た事ない。泣いたりしないひとだと思っていた。ゆらゝと。月が。月も泣いているんだろうか。
「もうすぐかな」
「うん」
ずっと上の方で空はいつまでもかたちを変えていく。
「やっぱ、死んじゃうかな。私も、潤も」
白いナーナの横顔。いつもここからナーナを見ている。ずっと、隣にいたから。死ぬかもしれないけど、でも僕たちは涙を流せないし理不尽さに怒ることも無い。多分そういう事。
「死なないよ」
月はこんなに明るいし、夜はいつも通りの静けさで、僕たちはここに…いるし。
そうだねって、ナーナがわらう。それでいい。
手を伸ばして指先に触れると、酷く冷たかった。蒼いひかりを帯びた指先は少しかなしい。
「…冷たい」
ん、とナーナは答えて、それから月の匂いのするキスをした。