第34回1000字小説バトル Entry24
静かな微笑みで、いつも僕の事をじっと見つめ続けてくれる。
君は悲しいドブネズミ。
「納豆は俺が貰うからな」--次男
「なによ、私だって昨日食べられなかったんだから」--長女
「うっさい!俺が貰う」--長男
「なんや?大きい兄ちゃん昨日食ったじゃん」--四男
「うっさい!」--長男
朝飯の食卓はいつもけたたましい騒ぎ。
「どうだい?少しは慣れたのかい」--母ちゃん
「ああ。」--俺
無愛想に答えて、そそくさと鞄を抱え俺は家を出た。
四月から高校に進学して、やっと一ヶ月が過ぎようとしていた。母ちゃんは何かと三男の俺の事を気に掛けてくれるが、それが逆にムカついて今は口も聞きたくないと言った所だ。
(慣れたって、どっちの事だ)
無理して進学率の良い高校に俺を進め、俺の将来の為? あんたの将来? そんな下らない事を考えているんだろうと思うと本気でムカついた。無理して入った学校じゃあ成績なんか良いわけがない。ついて行くのが精一杯。毎日が嫌になるくらい独りぽっちだ。
「鏑木、お前部活に入る?」
クラスの俺と同じ立場の加賀屋が便所で、朝のいっぷくの時に呟いた。
「わかんねー」
「俺さ、勉強できねーし、運動もダメだろ。だからどうしようかってな」
わかんねーと言ったが、俺はそんなもん出来るわけ無いって思っている。家の貧乏は絵に描いたようなもんで、俺がバイトしなきゃ自分の勉強代だって出やしねえ。母ちゃん達の稼ぎじゃ明日の飯も危ぶまれる位だ。
「どうする?」
「うっせーな、わかんねーよ」
食器の音が絶え間なく鳴り響く。
水道からは勢い良く流水の帯がシンクの底に泡の渦を巻いていた。無意識に両手を動かして次から次へと運び込まれる食器の山を洗い流していく。それが俺の放課後だ。
両腕がぱんぱんに張った頃、ようやく俺の一日が終わる。手拭で腕と顔を拭うと、壁際の油缶に腰を下ろした。疲れがどっと全身を覆った。無意識に何度も汗ばんだ顔を拭うと、母ちゃんの顔が浮かんで来た。
(ああ、勉強しなきゃな……)
ふーっと、一息つくとそんな事を考え、シンクの下に目線を向けた。
薄暗いシンクの下でじっとこちらを覗いている目線がある。何だろうと思い目を凝らして見てみると、頭を少し揺らしながら歌でも歌っている様にくすんだ茶色いネズミが一匹こちらを見ている。
(お前、何してるんだ?)
そう言ったつもりが、逆にそう言われている様に、君は楽しげに頭を揺らして 俺を見つめていた。