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第34回1000字小説バトル Entry25

雨やどり

 会社帰り、辺りが急に暗くなると目の前が霞む程のどしゃ降りになって、僕は持っていた傘を慌てて広げた。
 その傘は随分前から使っていて何度か修理に出したことさえあって、赤と青のチェック模様は、男性用なのか女性用なのか判断が付きかねたけど、僕にも少し大きめの丈夫な傘だった。
 少し小降りになったけど、雨脚はまだ強く人影は少なかった。
 傘を持っている人を待っていた様に、突然その女性が入ってきた。
「駅まで一緒にいいですか?」
 にこやかに微笑む彼女は僕と同じ年代らしいが、知らない人の傘に割り込む様な、そんな厚かましい女性には見えなかった。というより、何でも許せるくらい可愛かった。
「はい、どうぞ」
 僕は彼女の出現で少しうろたえた。
 見ず知らずの、それも可愛い女性と相合い傘だ。濡れたブラウスに映る下着の線が、あまり彼女を見てはいけないと意識させ、僕は真っ直ぐ前を見る努力をした。
 少し気まずい思いをしながらも、駅までの道のりを女性の歩調に合わせ、彼女がなるべく濡れないよう傘を傾けた。
「突然で吃驚したでしょ?」
「お互い様ですから」
 少し意識して、僕は素っ気無く答えていた。
「でも、いい傘ね。柄の部分は桜ね」
「そ、そうです」
 突然彼女は僕の手に、柔かな手を重ねてきた。まるで滑るように纏わりついて、なんともエロチックだった。
「少し話しません?」
 好奇心で一杯だったけど、なんだか巧く行き過ぎているようで恐くなり、駅に着いたときの彼女の言葉を無視して、僕は彼女の誘いを断り電車に飛び乗った。

 翌日の帰りも雨が振って、彼女が昨日のように、当たり前の顔で僕の傘に入って来た。「ウフッ」そう笑っただけで、彼女は又僕の手を握ってきた。ちょっと恐くなった僕は、手をどけてくれるように頼むと、彼女は悲しそうな顔をしながら残念そうに手を離した。
「私…、ほやなんですよ」
 そう言ってじっと僕を見つめた彼女は、悲しそうに雨の中を駆け出して行ってしまった。
 一体どういう意味なのか判らないが、涙ぐんでいた顔が僕に罪悪感だけを残していた。

 友人にこの話をしたら、せっかくのチャンスをバカだと言われた。どうやら彼女は、僕の手ではなく、傘の柄に触れていたかったのだという。ほや(寄生)はヤドリギの事らしい。
「学校で習ったろ、忘れたのかよ。傘の柄に寄生させれば、何でも願いが叶ったのに…」
 そういわれて始めて、小学校の時習った記憶が蘇った。

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