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第34回1000字小説バトル Entry27

火の星

 好きな人がいます。
 その人はこの白い箱の中に存在する。
 毎日浮かび上がる、文字だけの会話。音のないカッコワライで表される歓喜。
 その人物は自分を「かせい」と呼びます。そしてわたしのことを「せいら」とよびます。
(かせい聞いて…。今日またつらかった。まだ自分を傷つけちゃったの)
(大丈夫だ、僕はここにいるよ)
(本当に?)
(うん)
 スクリーンを触れると、本当にその人に触れているように感じた。機械的な熱が、その人の心の温かさのように感じる。
 画面から目を落として、自分の手首を見つめてみる。幾度も傷つけては癒されてきた無数の記録。
 死にたいわけじゃない。ただ、生きていたくないだけ。
 あたしの世界はここにない。
 あたしの居場所はこの中だけ。この、白い箱…。 
 かせいと話すと、癒された気がした。キーを打っている間だけ、わたしを包みこむこの空間が優しくなったような気がする。
 会ったこともない人。だけど、この胸にある思いは、この箱のように、人工的に作られたものではない。自然にあたしのなかで育ったもの。

(かせい…あたし、かせいに会いたい…)
(え?)
(会って、声を聞きたいの。姿を見たい…。かせいはなんどもあたしを助けてくれたよ。だから、会って、ちゃんとお礼が言いたいの。それにあたし)
(せいら。僕もせいらにあいたいよ
 でも…)
(なに?)
(いや……。うん、明日、会おう。)
(明日?嬉しい。どこで?)
(うん。…)
 今夜は嬉しくて、眠れそうもない。
 どんな人だろう。あたしをなんども癒してくれた人。かせい。火星?火の星?まるで太陽だ。あたしの、太陽。


 ごく普通の、どこにでもある住宅街の一角。飛び散る墨と、焼け落ちた家の後に残る無残な骨組み。
「あら、何かあったんですの?」
 集まった人達の中で、比較的仲の良い主婦をみかけ、声をかけてみる。
「えぇ、なんか火事らしいですよ。息子さんがなくなったって…」
「あれ、お気の毒に…」
「いえ、それがね、なんだか、ひどい肥満で。コンピューターの前に座ったまま動けなくて、結局…。火も、なんだかものすごいたこあし配線だったところから、何かに点火して…。そのまま火だるま。」
「あらーこわい。」

 
 少し早くきすぎたかな?まだそれらしき人は来てない。
 どんな人だろう。きっと、太陽みたいに明るくて素敵な人…。
 機械の熱じゃない、本当のあの人の暖かさに、包まれてみたい。
 早くこないかな。

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