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第34回1000字小説バトル Entry37

かつお節ご飯の待つ暖かい食卓へ

「いいんだよ。仕方ないものね」
 夕焼けが綺麗な日曜日の夕暮れ、健気に強がりの言葉を口にしたのは、左手を僕の右手に、右手を美咲の左手に繋いで最後の道程を歩くワラビ−のリョウスケだった。美咲と一緒に暮らし始めたのは二年前で、リョウスケとはさらにその二年前から一緒だったからもう四年一緒だったことになる。貧乏なカメラマンの僕によく付いてきてくれたと思う。なけなしのお金で行ったオーストラリアへの撮影旅行から帰ってきた夜、やっと部屋に着いて下ろしたリュックの中からこいつが出てきたときには本当に驚いた。でも今ではあのときワシントン条約なんて難しいことを知らなくて本当に良かったと思う。家の掃除をしてくれたり、フィルムの整理をしてくれたり、そういえば美咲と大げんかしたとき仲直りさせてくれたのもリョウスケだった。そして今日、家賃も払えない僕たちに「ペットショップに行こうよ。僕ってきっと珍しいし、きっとお金持ちに買ってもらえるかも」なんて笑って切り出してくれたのもリョウスケだった。カメラマンという夢を追い掛けてきた僕はなんて弱くて小さいのだろう。そんなリョウスケに「なに言ってるんだ!」と怒ってやることも出来なかった。

「ねえ、本当に行くの?」
 美咲の声はいつもと違って消えそうに細い。
 僕たちはリョウスケの顔を直視できない。もう目の前に見えているペットショップでは小さい男の子が犬の檻にしがみついて「お母さん買って」とだだをこねている。母親は「早く来ないと置いていくよ」と怒って言うけど本当に置いていったりはしないのだ。それを見ていると辛くて、もうここには居たくなくて、僕はリョウスケの手を振りほどいて走った。

「僕はカメラマンです。ここの動物達を綺麗に撮ります。お願いです、仕事ください」
 自分でも思いもしない方向に走っていた。気が付くと店先で土下座していた。たぶん初めてだった。涙が流れていた。そんな僕を、僕たちを夕日は暖かく包み込んでくれていた。

「格好良かったわよ」
「本当に…ありがとう」
 僕たちは三人並んで歩いていた。もう手は繋いでいない。辺りも暗くなってきた。貰った仕事は小さなものだったけど、それは大きな奇跡だった。
「貧乏には変わりないんだからな。晩ご飯のおかずかつお節だけだぞ」
 ふと見ると二人とも笑っていた。僕は照れくさくなって空を眺めた。都会の真中で満点の星空までもが見えてきそうな夜だった。

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