第34回1000字小説バトル Entry6
寄り道をして遊びすぎたふたりの小学生が、夕暮れの校庭を歩いていた。
そこを通り抜けるのが家へ帰る近道だったからだが、夜の小学校はどうも気持ちが悪くて仕方がない。
「あの二宮金次郎だけどね、月夜の中、学校を歩き回るらしいよ」
ひとりの少年が小さな声で話し掛けた。
「そんな馬鹿馬鹿しい」
「勉強のしすぎで皆に嫌がられ、悪魔の呪いを受けて体を縛られてしまったんだ。本当は生きているんだぞ。月の光を浴びると、その魔法が解けるんだ」
言いながら、その二宮金次郎の銅像の前にきた時、すでに満月が夜空に見えていた。
と、突然、二宮金次郎が「うううう」とうめき声を上げたのである。
少年たちは血相を変えて走り出した。
噂どおり二宮金次郎は生きていた。台座から飛び降りると「見たな」と叫びながらすぐに少年たちを追いかけてきた。
なんという恐ろしさ!
「捕まえられると食われてしまうぞ」
「な、何で」
「なんか、そんな気がするんだ。でも、大丈夫。学校を抜けたら人がいるよ」
「それまでに捕まっちゃうよ」
「よし、時間稼ぎをしよう」
そう言いながら片方の少年が、ランドセルの中から教科書をつまみ出して後ろに投げた。二宮金次郎はそれを拾って立ち止まった。
「本を見ると読まずにいられないんだ」
が、それもあっという間のことである。すぐに本を読み終えて、再び追いかけてくる。
「何て読むのが早いんだ」
「さすが、二宮金次郎。なにしろ、勉強の鬼のような人だからな。すぐに次の教科書を投げよう!」
教科書を投げるたびに二宮金次郎は立ち止まるが、あまり時間稼ぎにならない。
だが、それでも校庭を抜けるまでの間である。あともう少しだ。
「わっ、僕の教科書は全部なくなっちゃったよ。今度は君が投げて! 後、二三冊で逃げ切れる」
が、となりの少年は今にも泣きそうな顔をしていた。
「どうしたの?」
「ごめん、僕、どうせ家に帰っても勉強しないからね……」
「教科書は学校に置きっぱなしなんだ!」
その子のランドセルにはゲームボーイしか入ってなかったのである。