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第35回1000字小説バトル Entry16

黒い影

周りを見渡してみると、真っ白な壁と蛍光灯に照らされた部屋に自分の黒い影が起ち現れている。部屋の隅に威厳を持って陣取っていたテレビは、いつのまにか生気を失い、孤立して何かを待っているようであった。いやに部屋が静かだ。彼は静寂に耐え切れず、ポケットの中に入れてあるリモコンをとりだし、テレビの電源を入れた。しかし、テレビは決して動き出さなかった。テレビ自身が断固として抵抗しているように見える。動いたのは彼と彼の黒い影だけであった。リモコンは投げ捨てられ、持ち主の元を離れた。

「役立たずが!」

朝っぱらから怒ったせいなのか、今日は余計に腹が減る。部屋の中央にある白い冷蔵庫に目をやった。自分はよくこの扉を開ける。おいしいご馳走が入っているわけでもないし、牛飲馬食のような食生活をおくっているわけでもない。入っているのは毎朝配達される牛乳と鶏の卵だけである。理由という理由を言えば、何が入っているかを確認しないと気が済まない、そういう彼の性分がしかさせずには置かなかったからだ。しかし冷蔵庫もまた受動的な態度を貫き、空腹を満たしてくれるのを期待しているかのようだった。中には何も入っておらず、彼は気分をいっそう害した。

すると彼は白い部屋をくまのようにぐるぐる回り始めた。彼は何かを探していた。何かで自分を満足させようとして。しかし、それに応じることなく、彼の黒い影は彼のもとを離れていった。

それからの彼は友人もいない、家族もいない、完全に孤立した人間である。彼はもう誰とも会うことはない、いや会うことができないのだった。彼にはもう影がなかったから。

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