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第35回1000字小説バトル Entry18

『完全被甲弾』

 とあるデパートのオモチャ売り場。
 小学生くらいの男の子が母親の手を引張って何かを訴えている。

「ねえ、ママぁ。良いでしょ〜?」
「駄目です! こんな血が出るようなゲーム、子供がやっちゃいけません!」
 母親はにべも無くそう言う。だが、男の子もこのくらいでは引き下がらない。
「えぇ〜、でも、サトル君は買ってもらったって言ってたよ」
 母親は、必殺の常套句を発する。
「他家は他家、家は家」
「えぇ〜、でもぉ……」
 男の子はまだ諦め切れないようだ。
 母親は、そんな男の子を無視して言葉を続ける。
「だいたい、悟君のお母さんは何を考えてるのかしら? 子供にあんな残酷な描写のあるゲームを買ってあげるだなんて……」
(さっき、他家は他家って言ってたくせに……)
 と男の子は思ったけれど、口にはしない。
「んじゃぁさぁ、あれかってよ」
 と、ゲームはダメだと見切りをつけた男の子は違う棚の商品を指差して言った。
「え? ――あれは前、買ってあげたでしょ?」
「違うよ! 前のはベレッタM1919で、これはグロッグのニューモデルだよ!」
「どれも同じでしょ、拳銃なんて」
「違うよ! 装弾数とか反動とか、使い易さが全然違うもん! ねえ、サトル君はもう買ってもらって、昨日ホームレスで試し撃ちしてたよ」
「だから、他家は他家、家は家。――ダメよ、買いません」
 ここで、男の子は諸刃の殺し文句を発動させる。
「買ってくれたら、買い食いもしないし、遅刻も寄り道もしないし、宿題だって毎日ちゃんとやるよ。だからさぁ、ねえ、いいでしょ?」
「…………」
 母親は考え込む素振りのまま、押し黙る。
 駄目押しとばかりに男の子は言う。
「ゲーム欲しいって、もう言わないからさぁ。ゲーム買うより、ずっと安いし……いいでしょ?」
 そう言って、母親に懇願の眼差しを注ぐ。
 母親は――
「……ふう。しょうがないわね」
 と、一つ溜息を吐いて言った。
「ホント? やったぁ!」
「但し、今言ったことを守らなかった、即取り上げますからね」
「うん! ありがとう、ママ!」
 男の子は跳び上がらんばかりに喜んで、銃の棚に走り――
「待ちなさい」
 母親がその背中を止める。
「え、何?」
 振り返った男の子に、母親は諭すように声を掛ける。
「ホームレスの人を無闇に撃ったりしちゃダメよ」
「え……」
「弾だってタダじゃないんだから、一日一人までにしなさいね」
「は〜いっ!」
 男の子は元気よく返事をした。

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