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第35回1000字小説バトル Entry22

掘り返す

これは、実際にあった、僕の思い出の一つだ。

僕が、二十五になろうとしていた頃だったと思う。
あの日は、確か白い雪の妖精が自分の仲間を求めに降りてきていた。
普段通り、本屋のアルバイトを済ませた僕は、駅に向かって歩いていた。
白く薄い絨毯に僕の足後を残しながら、改札口に向かう階段に足をかけたとき、女の人が近づいてきた。
僕の体は、何故かその時、寒さとは違う震えをしていた気がする。
人見知りをするほうではない僕にとって、初めての一目ぼれだったのかもしれない。
雪が舞う中、黄色い服を来た彼女は僕に近づき、手の平に何かを手渡してきた。
しかし、その時の記憶は、そこで終わっている。
次の記憶が確かになったのは、次の日の朝からだった。
不思議なことに僕の記憶は、彼女から、何かを手渡された時から消えていたのだった。
あの時の僕は、自分で言うのも恥ずかしいのだが、徹夜で遊んだ事もなく、お酒も記憶を無くすほど飲んだことがなかった。
多分、あの頃の言葉で言う、生真面目な性格だった。
だから、その時を疑問に思った僕は、とりあえず、昨日の記憶を無くした駅まで行った。
そして、その時と同じ階段に足をかけて思い出そうとはしたが、思い出せなかった。
仕方がなく、アルバイトの時間になったので僕は本屋へと向かった。
確か、その日のバイトは、昨日よりも早く終わっていた気がする。
それで僕は、昨日と同じ時間に同じ行動をしようと考え、時間を潰すのに喫茶店へと入った。
しばらく居た僕は、時間になったので店を出ようと財布を開いたら、不思議なことに中身が増えていた。
バイトに来る時は、定期を使ったので気がつかなかったが、確かに、僕の財布のお札が増えていた。
しかし、あれは、今、思えば、そんな気がするということで、あの時の僕は気がついていなかった。
あの時は、普通に会計を済ませ、同じ時間に駅の改札口へと上がる階段へと向かった。
その日は、昨日の雪が嘘のように暖かかく、僕はマフラーを外して、階段の一段目に足をかけた覚えがある。
しかし、その時は、昨日と同じ女の人はいなく、10代後半の男がチラシを配っていた。
しばらく、階段に腰をおろし、昨日の彼女を待っては見たが、その日は現れる事はなかった。
そして、次の日も。その次の日も。その先、僕は、彼女を見つけることはなかった。

今、歳をとっても憶えている、あの時の不思議な経験は、僕の生きてきた中で一番の思い出なのかもしれない。

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