第35回1000字小説バトル Entry27
必死に走っていたのは黒い影。
続いて必死に走っていたのは銀の影。
銀の影は最高速の勢いそのままに地を蹴り宙を駈ける。中空より舞い降りる死の圧力、水平疾走を全身の撥条で垂直上昇に変えた黒い影は大地を両足で抉りとって残像をそこに置き去った。
後方一回転半捻りを決め八朔の木の前三センチに着地した黒い影、その前には不敵に見上げて身構える銀の影。
両者は静かに息を吐いた。
青空には雲が流れ、花には蜂が舞う。
静かな唸りで時が満ちるのを待っていた。
己の身をくねらせ均整の取れた体躯に力を漲らせる黒い影。
高さでは劣るものの横幅で勝る銀の影は姿勢を低くし足に力を込めている。
息が吐き出されるほどに両者の気が体から溢れ、足元の雑草が同心円状に吹き飛ばされていく。毛という毛が逆立ちゆく様は激突の瞬間が迫ったことを告げていた。
気合が竜巻と化し奔流となった。衝撃が爆発となって枯草を宙に巻き上げ、枯草よりも早く黒い影は宙に舞う。
地に走った音と衝撃のみが襲撃を伝えた時、幾条もの細い銀の筋が黒い影に纏わりつかんとしていた。砂塵を舞い上げ地から這い出たしなりうねる黒い鞭は銀の筋を遮って輝きを止める。
互いを縛った黒い鞭と銀の筋は黒い影と銀の影を引き寄せる。絡み合った回転する黒と銀とが陰と陽を為し調和を象る太極の姿をまさに作り出さんとしたとき、回転する太極は互いの力で弾け跳んだ。
放出された精気が螺旋となって地から砂塵と枯草を舞い上げ両者を隠した。空からは八朔の葉がひらひらと舞い落ちている。
青空を流れる雲が太陽を隠し花の色が翳った。
距離を保ち円の軌跡で互いから目を離さない両者。
砂塵が収まるほどに息が整ってゆく。花の色に輝きが戻った。
再びの爆発。舞い落ちる八朔の葉が見えないものに弾き飛ばされる。残像すら留めない黒い鎌が銀の影を刈り取ろうと襲いかかった。上、そして、下。銀の影に突き刺さった黒い鎌の間では銀の槍が地から伸び黒の影に吸いこまれていた。
銀の槍を黒の影に吸いこませたまま銀の影は身を捻る。地に叩き付けんとされた黒い影、しかし銀の影をはさみこんだ黒い鎌がそれを許さない、槍を払い銀の影をしたたかに削る。衝突は眩む雷光を携え銀の影と黒の影の一部を刈り取り、砂塵で澱んだ宙に黒と銀の煌く紗を顕現させた。
「フシャアァァァァァァッ!!」
「ウルロォォォォォォォオ!!」
両者が朋友となる日は遠い。