第35回1000字小説バトル Entry37
「木の枝が分かれた所に海が」と言う彼の詩を想像するだけで、あたしの岸の岩は嵐のように濡れて、
頭の中が真っ白とか、そう言う俗っぽい表現が良く似合ってしまう位、感じてしまう。あたしはワル
をする時に、その詩を考えずにはいられない。
今日の客は四十半ばだが、オヤジという言葉が似合わないダンディな人で、ホテルについて彼を見
たときには、むしろ仕事としてではなく、現実に愛し合えたならば、と切に願ったほどだ。
部屋についてすぐに彼は、あたしに下着だけを取るように言った。下着を着けずに服を着る、とい
う行為に彼は興奮するようだ。女は不思議な物で、好人に対しては、普段眼を瞑っても見えてしまう
嫌な事柄に対しても、それが彼の一部のように愛らしく感じるのだ。あたしはすぐ彼の言う通り、ま
た出来る限りいやらしく下着を取った。
すると彼は、彼の目の前にある椅子に後ろ向き座るように言い、パンツを脱いだ。彼の変態故に、
あたしはさらに彼のことを愛しく思ったが、そう感じたあたしは彼よりも変態なのかもしれない、と
思った時、あたしのあそこが恐ろしい位に濡れていて、例の詩が頭の中で鳴り響いている事に気がつ
いた。
彼はそんなあたしを見ながらオナニーを始め、あたしに屈辱的で汚らわしい罵声を浴びせた。その
一言一言があたしの脳を侵食してきて、体が言うことを聞かなくなってくる。異常なほど興奮してき
て彼に、おまんこをさわっても良い、と聞いたが、「駄目だ。お前は只の置物だ。黙ってろ」と言っ
て、あたしはその一言を聞いて逝ってしまった。
彼が射精した後、茶封筒に入れたお金を捨てるようにあたしに渡して、無言で部屋を出ていった。
ベットの中で、あたしは彼を思った。愛を感じていた。しかし彼は、あたしを只の商品としてしか
思っていない。あたしは愛を商品にしているのだ。愛を売っている者は、自分の為の愛を在庫に持っ
ていないのだろうか。
3年前に別れた彼が別れ際、「俺は詩を売り物にしている。説得力も中身も何もない只の文字列に
成ってしまった。だから、仕事をやめようと思う。お前には迷惑をかけたくない。だから、さような
ら」、と言った。
あたしはその意味が判らなかった。しかし、今はその理由が判るかもしれない。あたしはもう、愛
を持つことが出来ない。そう思うと、切なくなってしまい、気がつくと涙が溢れていたが、彼の言葉
の名残か、あたしのあそこも未だ濡れていた。