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第35回1000字小説バトル Entry46

舞い上がる絶妙なコロネ

 作者は何かを勘違いしている。
 もしかしたら彼は、主人公と、舞台と、タイトルさえあれば、物語は勝手に進行して行ってくれるものだと思っているのではなかろうか。
 まあ、それも、一面の真理を突いていると言えなくもない。そういう小説だって、まったくないとは言い切れないからだ。
 しかし。
 この見渡す限りの、地平線もない、真っ白な空間で、チョココロネが一個ぽつんと置いてあるだけの状況から、主人公たる俺はどのような物語を展開して行けばいいのだ?
 さっぱりわからない。
 しかもこのチョココロネ、5分に1回くらいの間隔で、ひゅるるるるると猛速で空中に舞い上がり、広げた傘のような速度でゆっくりと同じ場所へ落ちてくる。
 ……ほんッと、どうすればいいのだ。
 意味がわからない。
 タイトルそのまんまではないか。舞い上がるコロネ。多分、絶妙に美味いのだろうコロネ。
 主人公として、三次元でもなく二次元でもなくそれ以上の高次元でも低次元でもないこの言葉のみで構成された世界に生を受けたからには、何かやるべきことがあるはずだ……と思いたい。
 一応の自我やアイデンティティーは持っているという設定だから、自分自身の確立の為にも、この世界で、あと500文字弱のこの世界で、何かをやり遂げなければならない。
 取り敢えず、コロネに近付いてみる。
 と、その瞬間、恐るべき速度で舞い上がったコロネが、俺の鼻先を掠めた。
 少し、擦り剥けた。
 いっそ喰ってやろうか。そう思った。
 コロネがゆっくりと、天使のように空から舞い降りた後、俺はそいつをしっかと抱きすくめた。
 もう、空は舞わせない。俺は元来負けず嫌いという設定なのだ。その相手が、例え……コロネだったとしてもだ。
 5分が経ち、その瞬間、俺はとてつもない衝撃を腹に受けた。プロボクサーのパンチのようだった。
 そして、俺は、空を飛んでいた。コロネは俺ごと、舞い上がったのだ。
 しかしまあ、コロネはコロネ。俺の腹を打ちすくめた瞬間、べちゃっと潰れ、中のチョコをにゅるんと吐き出していた。少し勿体無かったか。
 地上へ降りた俺は、Tシャツにべっとり付いたチョコも残さず、コロネを全てたいらげた。これで空が飛べるようになるだろう。そう思った。
 飛翔は人類の夢だ。しかし、同時に、嫌な予感もした。
 そうして、また、5分が経った。

 コロネの細かい破片が全て、俺の頭蓋を突き貫いて、空へと舞い上がった。

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