第35回1000字小説バトル Entry8
遠い遠いところから
旅を続ける猫
名前を探して
旅をする猫
銀白の姿
金碧の瞳
今はもう次の街
どんな名前で
呼ばれているの
「ねえ、おばあちゃん、このうたのねこさんはどうなっちゃったの?」
「……そうだねえ。カイル、お前はどう思う?」
「なまえ、みつかってるといいなあ……」
遠い遠いところから
旅を続ける猫
名前を探して
旅をする猫
幼い頃、祖母から教わったこの古い歌。
どこかの国のおとぎ話なのだろう。
この歌を僕に歌ってくれていた時の祖母の顔。哀しい、けれどとても懐かしそうに微笑んでいたのを覚えている……。
「カイル、ひとつだけ、私のお願いをきいてくれるかね?」
「なあに?」
「この歌の続き、知りたがっていたね?」
「うん」
「じゃあ、お前が作ってくれないかい?」
「ぼくが?」
「お前がいつか、この猫と出会って、その子にきれいな名前をつけてこの歌の続きを歌って欲しいのさ……」
「おばあちゃん……。うん!ぼく、つくるよ。このねこさんとあって、つくるよ!」
「……ああ、よかった……」
それが祖母の最後の言葉。最後に交わした約束。
祖母が亡くなったのは夜明け。窓から射し込む朝の陽の光が、祖母を神の御許へと導いていった。柔らかな光の中で、安堵に包まれて眠る祖母の顔を、僕は忘れない。
遠い遠いところから
旅を続ける猫
名前を探して
旅をする猫
祖母が天に昇った何度目かの今日、また祖母の前であの歌を唄おう。約束が果たせるその日まで、一番だけのあの歌を。
銀白の姿
金碧の瞳
今はもう次の街
どんな名前で
呼ばれているの
夜が明ける前に行かなくちゃ。僕を待つあの人の所へ。朝日とともに唄うために。
「……」
――猫の声が聞こえる。
これは夢?朝日が見せた幻か、それとも……おばあちゃん?
祖母の墓前にたたずむ一匹の猫。
銀白の姿
金碧の瞳
「……おまえは、あの猫なのか……?」
「……」
さやかな声、優しい光を灯す二つの宝石。
「……僕と、来るかい?」
僕の顔を見つめるほのかな微笑み。
「おまえの名前は、ルシアだよ……」
遠い遠いところから
旅を続けた君
名前を探して
旅をした君
君の名はルシア
輝く朝日
ここはそう君の街
ずっと一緒に
僕と遊ぼう